新春ドラマスペシャル『スロウトレイン』(Slow Train)を鑑賞。野木亜紀子×松たか子でおくる鎌倉の3人姉弟を描いたハートフルな作品。
あらすじ・キャスト、ネタバレなしの感想、ラスト結末のネタバレ解説、視聴後の忖度なしの感想と考察レビューをまとめました!
ドラマ『スロウトレイン』あらすじ
©︎TBS公式サイト
長女・渋谷葉子(しぶや ようこ/松たか子)と次女・都子(みやこ/多部未華子)、弟の潮(うしお/松坂桃李)は両親と祖母の二十三回忌を終えて江ノ電に乗っていた。
都子は「今度、韓国の釜山に引っ越す…」とサラッと爆弾発言をして住んでいるアパートへ帰る。
葉子と潮は驚いた。2人は鎌倉の実家に住んでいた。
葉子は前に担当していた人気作家の百目鬼見(もめき けん/星野源)から、最近恋をしているのか?マッチングアプリを使ってみろとアドバイスされる。
葉子は都子からなぜ韓国に行くのか聞こうとするが、都子はどうせ話しても説教されるだけだと話そうとしない。
都子は葉子が出張したタイミングを見計らって週末に実家に帰ってくるが、クローゼットから葉子が出てきて驚く。出張は嘘だったのだ。
潮は週末は1人で過ごすと思っていたので恋人を呼んでいた。その人物はなんと…。
キャスト
渋谷葉子(しぶや ようこ/フリーで編集の仕事をしている)|松たか子
渋谷都子(しぶや みやこ/葉子の妹で飲食店に勤める)|多部未華子
渋谷潮(しぶや うしお/葉子と都子の弟で江ノ電の保線員)|松坂桃李
百目鬼見(もめき けん/人気作家)|星野源
オ・ユンス(都子の恋人)|チュ・ジョンヒョク
二階堂克己(にかいどう かつみ/葉子が担当するベテラン作家)|リリー・フランキー
目黒時生(めぐろ ときお)|井浦新
矢作カンナ(やはぎ/百目鬼見の担当編集)|松本穂香
ちょこっと感想(ネタバレなし)
3人きょうだいがそれぞれの視点から人生を見つめ直す物語。
ストーリーに起伏が少なく、エンタメ性が高いわけでもないが、人生ってなんだろう?寂しさってなんだろう?という答えのない疑問に光明が刺すような感動作。
寂しさや侘しさの意味をじっくり考えた人におすすめ。刺激的なストーリーを求める人には不向き。
『スロウトレイン』ネタバレ・ラスト結末
潮の恋人はなんと百目鬼だった。男性同士のカップルに少し驚く葉子と都子。葉子はそれ以上に担当していた作家と弟が1年も前から付き合っていたのに知らされなかった事実にショックを受けた。
都子は韓国に行く理由について飲食店の運営会社に勤める韓国人の恋人オ・ユンス(チュ・ジョンヒョク)と一緒に韓国へ行って店を出すからと話す。
百目鬼は潮と同棲したいあまり、葉子の元恋人で出版社に勤める目黒時生(めぐろ ときお/井浦新)に葉子のところへ行くように声をかけた。
葉子は百目鬼に殺意を抱きながらも、20年前に目黒が書いた小説にダメ出しをして別れた過去を思い出した。
葉子は百目鬼のマンションへ。百目鬼は潮と同棲したいが、潮はあなたのことが心配らしくて同棲に前向きではないと悩みを語る。
釜山にいる都子がインスタを更新しなくなったので、葉子と潮は飛行機で釜山へ。
都子の恋人オ・ユンスと会った。ユンスは都子にプロポーズしたが、姉がまだ結婚していないから…と断られたと話す。
葉子と潮は江ノ電に似た電車に乗っている都子を見つける。都子はプロポーズを断った本当の理由について、明日死ぬかもしれないのに希望を持てないと話した。両親と祖母を事故で亡くした過去が尾を引いているようだった。
葉子は、自分が目黒と結婚しなかったのはあなたたちが小さかったからではないと告白した。
葉子、都子、潮は、全部3人でやってきた…と感傷に耽る。
その後、都子はユンスと仲直りして韓国で飲食店を経営する。潮は百目鬼と同棲するようになった。お正月になり、みんなが実家に戻ってくる。
ドラマ『スロウトレイン』感想と考察:わびさび
何か大きな事件が起きるわけではないが、野木亜紀子さんの脚本らしく人生についてさまざまな含蓄が込められているドラマだった。
序盤はスローテンポでなかなか入り込めなかったが、終盤は点と点が繋がっていって感動。
各駅に停車する江ノ電にいろいろなテーマが詰め込まれたような作品だった。
強いメッセージ性というよりは、いろんな回答が絡み合って人の営みを編んでいるようなイメージ。
テーマは葉子が編集する盆石の本のテーマにもなった“寂しさ”だろう。
3人きょうだいは両親と祖母に突然死なれた寂しさを抱えている。百目鬼は人といる孤独が辛いと語る。
特に印象的だったのは、宇野祥平さん演じるマッチングアプリで知り合った男性が葉子に「あなたは1人じゃないから1人でも生きていけるって簡単に言える…」と語っていたシーン。
1人では生きていけないとわかっていても、どうしようもできない人もいるのだ。ボッチの極みである私からすると切実なシーンだった。
寂しさについて幅広く描きつつ、日本に侘び寂びという言葉があることから寂しさが出汁のように染み渡るからこそ人生を歩んでいける。そんな真理が感じられた。
寂しさの反面に絆が生まれるのだ
また『ラストマイル』では配達員を演じていた宇野祥平さんが宅配便の話をしていたところに野木亜紀子シェアードユニバースを感じた。
寂しさがテーマだ!と語っておいてなんだが、映画『ラストマイル』や『海に眠るダイヤモンド』など野木亜紀子さんの作品はひとことでまとめることが難しい。
本作『スロウトレイン』も「こんなテーマの作品でした!」と偉そうにまとめようものなら、大事なものがこぼれ落ちてしまう気がする。それぞれのシーンに真理が宿っているタイプの作品で、細部を捨象しすぎるのは本末転倒だということも感じた。
いわゆる“普通”のレールから少しだけ外れた3人きょうだいを描いており、“おひとりさま”だと周囲から心配される余計なお世話や、潮と百目鬼が男性カップルな設定に多様性の波を感じるが、押し付けがましくないのがポイント。
「普通の人々」や「普通の感覚」を悪いと描いているわけではない絶妙なバランス感覚がある。
松たか子さん演じる葉子はおひとりさま編集者であり、野木亜紀子さんが自身を重ねたキャラクターなんだろうな…と想像してしまうのだが、そういう想像自体が決めつけだよ!っていうのが本作が伝えたいことの一つだと感じた。
都子から100万円を受け取った韓国人彼氏ユンスが予想に反していい奴だったように。
きょうだいの絆、他者との絆を描きつつ、誰もが特定のカテゴリーに当てはまらない唯一無二の存在であるという真理のようなものを突きつけていた作品でした。
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