映画『国宝』ネタバレ感想ラスト考察:血の呪いと芸の呪縛,悪魔との取引を解説

映画『国宝』2025

映画『国宝』を鑑賞。吉沢亮と横浜流星が歌舞伎の女型として芸を極めつつ、私生活で葛藤するディープかつ強烈な人間ドラマ。歌舞伎のシーンも美しすぎる!

  • あらすじ
  • ネタバレ・ラスト結末
  • 考察:血の呪い、悪魔との取引、ラストシーンの意味
  • 忖度なしの感想と評価

これらの情報をまとめました。

映画『国宝』あらすじ

映画『国宝』

©︎映画「国宝」製作委員会

公開:2025年6月6日
長さ:2時間54分
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
撮影:ソファニ・エル・ファニ(『アデル、ブルーは熱い色』)
原作:吉田修一の小説『国宝』(2018)
主題歌:原摩利彦 feat. 井口理「Luminance」

李相日が吉田修一の小説を実写化するのは『悪人』『怒り』に続いて『国宝』で3回目。

映画『国宝』あらすじ:ヤクザの親分の息子・喜久雄は、15歳の頃に抗争によって目の前で父親を殺される。歌舞伎の女型の素養があった喜久雄は花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、歌舞伎役者を志すことになった。

半二郎には喜久雄と同い年の息子・俊介がいた。2人は切磋琢磨しながら芸を磨いていく。学校の帰りには2人で練習し、家に帰ると半次郎に殴られながら稽古を繰り返した。それでも喜久雄は歌舞伎の魅力に取り憑かれていった。

喜久雄は人間国宝の万菊(田中泯)の演舞を見て化け物じみた技量を見て驚かされながらも、いつかは自分も日本一の女型になりたいと夢みる。

20歳を超える頃になると喜久雄(吉沢亮)の芸が俊介(横浜流星)の芸を凌駕するようになる。

半二郎は自身の代役になんと喜久雄を抜擢。喜久雄は大舞台をやりきるが俊介との関係に亀裂が入っていく。

喜久雄には芸はあったが守ってくれる血がなかった。俊介は喜久雄の才能に打ちのめされて身を崩していく。2人の人生はすれ違い、そして波乱に満ちてゆく。

ネタバレなし感想:言葉で語れない芸術性が高い物語

李相日監督らしく本作もすごく濃厚かつ重厚だった。ブログを書いておいてなんだが言葉で解説するのが憚られるような芸術性の高い作品。

ヒューマンドラマとしても素晴らしいけど、人間とはなんたるかを言葉ではなく芸や舞台で伝えてくるコンセプトが美しかった。単に感動するシンプルな人間ドラマの枠には収まりきらない。

ちなみに私には歌舞伎の知識や素養がないので、演目などの細かい知識があった方がより楽しめると思った。

歌舞伎のシーンは圧倒的に美しいとは思いつつも、物語の重要なポイントである喜久雄と俊介の技量の巧緻などが判断できない。

映画『国宝』ネタバレ・ラスト結末

映画「国宝」

芸は血を凌駕するのか

喜久雄(芸名は東一郎|吉沢亮)と俊介(芸名は半也|横浜流星)は女型同士でコンビを組み、新人役者として有名になっていく。

喜久雄は地元時代からの恋人・春江(高畑充希)に結婚しようか?と言うが、春江は「私が1番の贔屓になる」としか言わなかった。

ある日、半次郎(渡辺謙)は交通事故に遭い、舞台に立てなくなる。半次郎は自身の代役に息子の俊介ではなく喜久雄を指名した。半次郎の妻で俊介の母・幸子(寺島しのぶ)は憤った。

喜久雄は半次郎にスパルタで稽古を受け、絶大なプレッシャーの中で初日を迎える。舞台の直前に喜久雄は震え、俊介に「守ってくれる血がほしい」と言った。俊介は「お前には芸がある」と返した

喜久雄は曽根崎心中を成功させる。客席で見ていた俊介は喜久雄の演技に圧倒され、また自分の才能の無さに絶望し、館を去る。春江は俊介を追った。俊介は家を出て行って消息がわからなくなった。

喜久雄は藤駒(見上愛)という芸妓と仲良くなり、あやのという子供ができる。

血筋からは逃れられない

数年後、喜久雄は三代目半次郎を継ぐことになる。しかし襲名式で半次郎が血を流して倒れた。半次郎は「俊介、俊介」と息子の名前を口にし、その後に亡くなった

半次郎の後ろ盾がなくなり、喜久雄は次第に良い役を貰えなくなっていった。
失踪していた俊介が帰ってきた。妻になった春江と息子と一緒だった。俊介は地方の飲みの席などで歌舞伎をして生活していたようだ。俊介が家に戻ると皆が喜び、俊介は興行に復帰することになる。

喜久雄は俊介を羨んだ。有名歌舞伎役者の娘・彰子(森七菜)と恋愛関係になるが、そのことやヤクザの息子であることがバレて家を出て行かざるを得なくなる。

喜久雄は彰子と一緒に飲み会の席を回って芸を披露する。しかし芸のことしか考えていない喜久雄は彰子にも見放される。

ラスト結末:人間国宝へ

数年後、喜久雄は死の床にある人間国宝の万菊に呼ばれた。喜久雄は万菊の前で踊る。

やがて喜久雄は俊介に呼ばれて歌舞伎の表舞台に復帰することになる。俊介は糖尿病で左足を切断しながらも、喜久雄と一緒に曽根崎心中をやり遂げる

喜久雄は俊介の息子を稽古した。やがて俊介は死亡。

数十年後、喜久雄は人間国宝に選出された。写真家の女性が話しかけてくる。彼女は喜久雄と藤駒の娘・あやのだった。あやのは父を恨みながらも、舞台を見て心惹かれたことを話す

喜久雄はかつて万菊が演じた鷺娘で喝采を浴びる

映画『国宝』終わり

映画『国宝』考察まとめ

血の呪い、芸の呪い

テーマは血の呪いと芸の呪いだと感じた。

言葉を選ばなければ、世襲が多い歌舞伎の世界は血の呪いと芸の呪いそのものだと思った。どちらか片方が欠けていてもうまくいかない。

俊介は、歌舞伎を呪い憎みながらも、また歌舞伎に帰ってくる。何年も家を空けたにも関わらずまた歓迎される。これは血の呪縛がなせる技だろう。

いっぽう喜久雄の芸への執念は常軌を逸していた。子供・あやのの前で神社の鈴を鳴らしながら「もっと歌舞伎が上手くなるよう悪魔と取引した」と言う喜久雄。
半次郎の名を継いだパレードで追ってくるあやのの姿が目に入らない喜久雄。
勘当されてまで自分と一緒になった彰子のことを全く見ていない喜久雄。
芸への呪いが血の呪いを凌駕したのが喜久雄なのだろう(吉沢亮さんの顔が爽やかなので中和されているが、相当にヤバいやつである)。

家を追い出されて宴会周りをしていた喜久雄は、女型によってある男性を本気で魅了させてしまう。その男性は喜久雄が男だと知って怒り、暴行を加えてくる。殴られたあとの喜久雄は屋上で踊り狂う。ホアキン・フェニックスのジョーカーっぽい。彰子のことなど目に入らない。

この時に喜久雄と悪魔の取引が成立したように思えた。

喜久雄は神社で鈴を鳴らしながら「歌舞伎が上手くなれば他のものは差し出す」と言った。悪魔との取引によって家族も名声も捨て、魔性の芸が完成したようなシーンだった芸に呪われて化け物になることを自ら望んだ男、それが喜久雄なのだろう。

喜久雄が探し続けていた景色とは

喜久雄が人間国宝に選ばれた後のインタビューで「景色を探し続けている。うまく説明できない」と言っていた。

これは雪が降る夜に父・権五郎が刺青を見せつけながら抗争相手の銃弾に倒れた際の美しい風景が目に焼き付いていて、それを探している意味だと考えられる。

そう捉えると、喜久雄も父・権五郎の血を片時も忘れていなかったように思える。

ラストシーンの意味:復讐を超えた

半次郎は喜久雄を引き取ったのちに「芸で復讐しろ」と言った。

喜久雄が人間国宝になって鷺姫を踊ったときに、この復讐が果たされたと感じた。

文字通りの復讐というより、喜久雄は鷺姫の舞台で紙吹雪が降る中で、父・権五郎が死んだ時の風景と自分の芸が重なったことを感じたのだと思った。だから最後に舞台で「美しい」と言ったのだろう

芸を極めながらも最後は血に還る…人間の抗えない本質を描いた本当に美しいラストシーンだった。

映画『国宝』感想と評価

良かった点:芸の美しさ、狂気を描く

芸の美しさだけでなく、その裏にある狂気をも描き切っていた

吉沢亮と横浜流星のコンビが爽やかだったからか、そこまでドロドロとした雰囲気ではなかったが、実質かなり怖い作品だと感じた。

シンプルに感動するというより、映画『ボヘミアンラプソディ』のように芸術が波瀾万丈な私生活を凌駕するような深いテーマがあった。

(原作者や制作陣の歌舞伎に対するリスペクトはもちろんあると思うが)歌舞伎界、ひいては芸能界の実態にも真摯に向きあっていたと思う。

半次郎の後ろ盾がなくなった喜久雄が端役しかもらえず、8年ぶりに帰ってきた俊介がメインを張れる歌舞伎界が怖い。

(実際はどうなのか知らないが)歌舞伎界の血の呪縛の怖さをまざまざと見せつけられた。天皇家や貴族のように血筋が絶対の世界があるのだろう

血筋が芸を凌駕する。そんなことが日常茶飯事なのかもしれない。失踪から帰ってきた跡取り・俊介を愛しい目で見つめる下男・下女たち。その目がなんか怖い。

また、考えてみると主人公の喜久雄が人間的にかなり酷い人物で、安易な共感を排するようだった点も興味深い。
喜久雄は芸妓・藤駒との間に子供を作るが正式に結婚はしていなかった。藤駒も娘も捨てたのだろう。
その後で一緒になった彰子の存在を受け止めず、芸ばかり見ていた。人間的には破綻した人物といえる。

喜久雄は15歳の頃に、飲みの席で素人ながらに歌舞伎を披露していたが、それから20年も経って半次郎の後ろ盾を失ってからまた飲みの席で歌舞伎を披露するようになった経緯も切ない。年月も技量も増したにも関わらず、また同じ地点に戻ってくる。芸事の不条理さが表現されていた。

演技面では吉沢亮さんも横浜流星さんも両人とも素晴らしかったが、著名な舞踊家である田中泯さん(人間国宝・万菊)が芸について語るときの説得力が半端なかった。すべてを見透かしたような目の動き、喋り方が怖い。人間国宝レベルの舞踊家・田中泯さんが作品に説得力と深みを与えていたように思える。

残念な点

残念な点はほぼないが、上映時間が約3時間で若干冗長に感じてしまった。小説でゆっくり読み込むには良い物語なのかもしれないが、映画だとボリューミー。

また映画の形式上仕方ないことなのだが、歌舞伎の舞台で演者の顔をアップにする演出の多用ってどうなんだろうと気になった。私ごときの意見にはなるが、歌舞伎の見せ方や美しさの本質から逸れるのでは?本当に歌舞伎が好きな人からすると邪道に映るかもしれない。

カメラ固定で歌舞伎を見せると映画っぽくなくなるし難しいところではあるけど、もっと引きのシーンが多くてもよかった。

田中泯さんが踊っているシーンで揺れるようなエフェクトをつけるのもどうなの?と思ってしまった。

まとめると、映画『国宝』は安易な人間ドラマを超えて芸術家の生き様を見せつけてくれた良作だった。

あとは自分がもっと歌舞伎の勉強をしておけば良かった。この映画で歌舞伎の美しさに触れたので、少しでも勉強していきたいと思う。

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映画『国宝』キャスト

立花喜久雄(花井東一郎)|cast 吉沢亮
大垣俊介(花井半也)|cast 横浜流星(『片思い世界』『正体』『わかっていても』)
福田春江|cast 高畑充希
大垣幸子|cast 寺島しのぶ
彰子|cast 森七菜
竹野|cast 三浦貴大
藤駒|cast 見上愛
喜久雄の少年時代|cast 黒川想矢
俊介の少年時代|cast 越山敬達
立花権五郎|cast 永瀬正敏
梅木|cast 嶋田久作
立花マツ|cast 宮澤エマ
吾妻千五郎|cast 中村鴈治郎
小野川万菊|cast 田中泯
花井半二郎|cast 渡辺謙

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