『劇映画 孤独のグルメ』を鑑賞。
井之頭五郎(松重豊)がスープの食材を探して国境を越える…。ちゃんと映画になっていた。スープで心まで温まった。お腹は減ったけど。
あらすじ、ネタバレなし感想、ラスト結末のネタバレ解説、視聴後の忖度なしの感想&評価、「脚本の巧かった点考察」をまとめました。
『劇映画 孤独のグルメ』あらすじ・作品情報
公開:2025年1月10日
監督・脚本・主演:松重豊
長さ:110分
主題歌:ザ・クロマニヨンズの「空腹と俺」
©︎公式サイト
井之頭五郎(松重豊)はフランス・パリに呼び出される。依頼人との待ち合わせまで時間があったので現地のレストランで絶品のオニオンスープを楽しんだ。
依頼人の千秋(杏)と会い、五郎はマンションへ案内される。五郎は千秋の祖父・松尾一郎(塩見三省)からの依頼の品である故郷・五島列島を描いた絵画を届けた。
一郎は故郷の風景を懐かしみ、「昔母が作ってくれたいっちゃん汁がどうしても食べたい」と言う。五郎はいっちゃん汁の材料が何かを探しに長崎の五島列島へ赴くのだが…。
キャスト↓
井之頭五郎|cast 松重豊(映画『正体』)
志穂|cast 内田有紀
松尾一郎|cast 塩見三省
松尾千秋|cast 杏(『翔んで埼玉2』)
中川|cast 磯村勇斗(『今際の国のアリス2』)
韓国の入国審査官|cast ユ・ジェミョン(『梨泰院クラス』)
ラーメン屋店主|cast オダギリジョー(『大怪獣のあとしまつ』)
滝山|cast 村田雄浩
善福寺六郎|cast 遠藤憲一(『スオミの話をしよう』)
ネタバレなし感想
ドラマ『孤独のグルメ』のような楽しみ方ももちろんできるし、映画としても物語がしっかりしていて非常に面白かった。
どんな映画になるのか疑問だったが、期待を大幅に越えてきた。そして国境も越えた。
笑って泣いて、そしてお腹が減る絶品映画。
『劇映画 孤独のグルメ』ネタバレ・ラスト結末解説
腹が減った五郎は五島列島で美味しいちゃんぽんを食べる。
五郎は聞き込みを続け、海の幸と山の幸を組み合わせたいっちゃん汁の出汁の一つがエソという深海魚の煮干しだと知り、エソを売っている隣島へ行こうとする。
しかしフェリーはもうない。今日を逃すとその店は数日休みのようだ。五郎はSUP(サップ)の店へ行くが閉まっている。SUPのボードとパドルを借りて1万円を置いた。そしてSUPに乗ってパドルを漕ぎ、隣の島へ向かう。
しかし猛烈な台風に襲われた。SUPは横転。五郎は嵐の中で叫ぶ。
気がつくと無人島に漂着していた。腹が減った五郎は海沿いで鍋を見つけ、はまぐりやキノコを煮込んで食べる。しかしキノコにあたったらしく痙攣して泡を吹き、意識を失った。
気がつくとベッドに寝かされていた。飛び起きる五郎。ダニエルという兵士が五郎を連れていく。志穂(内田有紀)と、韓国人の女性が座っていた。志穂は、ここは自然栽培の韓国料理を研究している島で、あなたは韓国に漂着した…と話す。
五郎はその島で取れたキノコや野菜など絶品の韓国料理を振る舞ってもらった。
志穂は夫でフランス料理のシェフとラーメン屋「さんせりて」を営んでいたが、コロナでダメになり夫婦の関係が崩れそうだったのでこの島に来たと話す。
五郎はダニエルによって1度韓国に送られる。入国管理局の人が港に来てくれる予定だったが遅いので、現地の店へ入った。
ファンテヘジャンクク(酔い覚ましスープ)とサバを注文したところで入国審査官(ユ・ジェミョン)がやってくる。審査官は五郎が美味しそうに食べるのを眺めていた。
五郎は日本へ戻る。そして志穂の旦那がやっている店「さんせりて」へ寄ってみた。
店主(オダギリジョー)が、今はラーメンはやっておらずチャーハンしかないと言う。チャーハンは絶品だった。
隣で食べていた中川(磯村勇斗)は店主に「もう1度ラーメンを作ってください」と頼む。店主はうるさい帰れと返した。
五郎は中川と相談。2人はいっちゃん汁のスープを作ってみてほしいと店主に頼みこむ。五郎はエソや、韓国から入手したシイタケなどを渡した。
店主は食材の良さに驚き、スープ作りとラーメン作りをすることを決意。
試作品ができるが、何かが足りない。五郎は出汁はエソでなく、韓国のファンテ(すけとうだらを乾燥させたもの)ではないかと思いつく。依頼人・一郎の母は韓国人らしい。
ファンテで作ったスープは絶品だった。五郎はこれがいっちゃん汁だと考える。
そのスープでラーメンも再開する。
ドラマ“孤高のグルメ”の番組ディレクターだった中川は「さんせりて」を取り上げた。
撮影では主人公(遠藤憲一)が入ってくる。五郎はエキストラでチャーハンを食べる役だった(韓国では入国審査官が家族でそのドラマをみている)。
五郎はスープを志穂がいる島へ送る。志穂は喜び、女性たちにラーメンを振る舞った。
フランスにも送る。千秋は、祖父の母が一郎が好きな汁という意味でオリジナルでいっちゃん汁と名付けていたらしいと話す。一郎はスープを飲み、美味すぎるから千秋にもっと下手に作らせると笑った。
今日も五郎は一人で夜の街を歩く。
映画『孤独のグルメ』終わり
『劇映画 孤独のグルメ』感想・評価:お腹も心も温まる
空腹が繋ぐ人間関係
ドラマ『孤独のグルメ』の良さは五郎(松重豊)が料理やお店と向き合うモノローグが主な見どころだが、映画ではモノローグが人間関係へと発展し、さらにその人間関係が点と点でつながっていくカタルシスがあった。
五郎の空腹が人と人とを数珠繋ぎしていくような抜群のコンセプトだった。
料理を食べている五郎は基本的にいつもと同じ詳細な独白を始めるが、会話になると今度は鑑賞者である私たちが五郎のモノローグを引き継ぐような印象。だから物語に深く入り込めたのだと思う。
鑑賞者は美味しそうな料理を見て五郎とともに洞察力や集中力を増していき、その洞察力がそのまま会話や人間関係にまで向けることができるコンテンツだと感じた。
松重豊(五郎)とユ・ジェミョン(韓ドラ『梨泰院クラス』などに出演)の絡みもよかった。しかし美味しそうに食べるやつだなあ…と独白しながら松重豊を眺めるユ・ジェミョン。2人の絶妙な空気感はずっと眺めていられる。
ドラマの方は料理と食堂に対する愛に溢れているが、映画版ではその愛が他人にまで輪を広げた印象を受けた。映画も大成功と言って良いと思う。
脚本が巧い・メタ構造
松重豊さんは演技だけでなく脚本も素晴らしい…。脱帽。
- 五郎はいつも美味しい店を探して彷徨い意外なお店を見つける
- 劇映画では食材を探して彷徨い、意外な展開に巻き込まれる
五郎の迷走とストーリー全体の迷走がフラクタルな構造になっている。こういう構成の映画は傑作率高い。(フラクタルとは細部のパートと全体のつくりに共通点があること)
また、磯村勇斗演じる中川がドラマ「孤高のグルメ」のスタッフで、遠藤憲一が主人公で松重豊がエキストラで出演する劇中劇のメタ構造も面白い。
そしてそのドラマをユ・ジェミョンが家族で料理を食べながら観ている(五郎が食べた店にわざわざ足を運んだことがわかる。)
サラッとメタ構造で笑わせてくる当たりも巧い。先程のフラクタルうんぬんも合わせて、抽象的な組み立てまでもが美しい物語だった。
ラーメン屋のロゴがタンポポだったのは、伊丹十三監督の映画『タンポポ』(1985)のオマージュだろう。
ラーメン屋の名前は「さんせりて」。サンセリテ(Sincerite)はフランス語で真心という意味。
五郎は志穂からタンポポが描かれた名刺を受け取り、店主への真心としてタンポポのロゴが入ったどんぶりを贈り、出来上がったスープは志穂へ贈られる。
そういう真心のリレーのようなものが感じられた。
『孤独のグルメ』以外の松重豊 脚本・監督作品を見てみたいと強く感じた。
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