映画『かくかくしかじか』を鑑賞。
漫画家・東村アキコの自叙伝的な映画で、絵画教室の日高先生の関係が描かれている。
主演は永野芽郁で、東村アキコの高校〜大学時代、漫画家になるまでを演じる。
恩師の日高先生役は大泉洋。ハマり役だった。近年の大泉洋の中で1番良かった。
- あらすじ
- 忖度ゼロの感想・評価(ネタバレあり)
- モデルとなった日岡兼三先生についての解説
これらの情報をまとめました!
映画『かくかくしかじか』あらすじ
宮崎県で親や先生たちに「絵がうますぎる!」と甘やかされて育った漫画家志望の林明子(アキコ/永野芽郁)。
高校3年になって美大卒の漫画家が格好いいと思い始め、クラスメイトの北見(見上愛)に紹介されて絵画教室へ行ってみる。
絵画教室で待ち受けていたのは超スパルタの日高健三先生(大泉洋)だった。
アキコは日高先生にデッサンをダメ出しされまくって凹む。アキコは絵画教室から逃げ出そうとするが、日高の誠実さに引き止められる。
日高にひたすら描かされているうちに、アキコの絵はメキメキ上達していくが、漫画家になりたいとは言い出せずにいた。
そしてやってくる受験。恋愛。そして漫画家としての苦悩。それぞれの時期に日高先生がかけてくれた言葉とは!?
映画『かくかくしかじか』ネタバレありの感想と評価
良かった点:人生のあるあるが詰まった良作
全体を通じて軽やかなトーンでもあるにも関わらず、誰もが共感できる人生の含蓄が詰まった良作だった。
先生と呼べる存在から人生を変えるほどの影響を受けたり、またどんな時もその先生の言葉がよみがえる“呪縛”に苦しんだりしている人は多いのではないか。かくいう私にも何人かは思い当たる。
映画にはそんな人生のあるあるが詰まっていた。
東村アキコさんは実写映画の脚本と美術監修も務めている。現場にも何度も足を運んだそうでストーリー全体から原作者・東村アキコさんの不思議な力が感じられた。
大泉洋演じる日高先生は想像以上にぶっ飛んだ美術教師で、暴言を吐くわ竹刀を振り回すわスパルタっぷりが強烈だった。昨今なら大問題になるレベル。デミアン・チャゼル監督の映画『セッション』みたい。
しかし日高先生は絵を描くことに対して真摯に向き合っている。高校生の東村アキコや生徒たちに心でぶつかっていく日高先生の姿が尊かった。
日高先生は東村アキコや生徒たちは「やればできる」と心の底から信じているのだろう。だからこそスパルタも成立するのだろう。そして今はこういう先生絶滅しちゃったんだろうな〜。
日高先生は熱血教師のような人物として描かれているが、彼が描いている絵は動物の骨や抽象画。その人間的な振り幅というかコントラストからも、ただものではないことが伝わってくる。
日高先生は「描け、毎日描け、ひたすら描けー!」と何度も叫ぶ。絵に人生をかけているからこそ「描け」という言葉が真理に聞こえる。彼の言葉は東村アキコたちにとって金言でもあり呪縛でもある。そこがまたリアル。
東村は大学在学中にわざわざ金沢に来てくれた日高を誰にも紹介しようとしなかったエピソードが印象的だった。たぶん親世代を友達に紹介するのが恥ずかしかったのだろう。
私も似たような経験があり、その時の後悔が小さなクサビとして心に残っている。その人も50歳くらいで亡くなってしまった。受けた恩を少しも返せなかった。本作を見てそんな思い出が蘇った。
キャストと演技について
主演の永野芽郁は不倫騒動の渦中にあり、なるべくそのことを思い起こさないで見るように務めた。
スキャンダルがあると作品のイメージにまで影響が及ぶのは仕方ないことだが、映画にも東村アキコ先生にも罪はないし、個人的にはなるべくフラットな目線で見るのが筋だと思った。
(不倫疑惑がチラついて冷静に見れない人も多いかもしれないが、なるべく多くの人にフラットな状態で届くことを望む)
永野芽郁の出演作品は最近だと『はたらく細胞』『晴れたらいいね』、ドラマ『キャスター』などを見たが、そのどれよりも『かくかくしかじか』の演技が良かったし、映画全体の内容も優れていたと思う。
関和亮監督は永野芽郁主演・バカリズム脚本の『地獄の花園』も担当している。永野芽郁の良さを活かすような演出ができていたように思う。普段はミュージックビデオを多く手掛けている方だからか、ときどき映像が幻想的な雰囲気になり、心が洗われた。
永野芽郁以上に良かったのが、大泉洋。竹刀を振り回して生徒にアイアンクローをする美術教師・日高のキャラクターは、大泉洋だからこそ演じられたのでは。
東村アキコ先生がご指名するのもうなづけるハマり役だった。『浅草キッド』と同じかそれ以上に深みのあるキャラクターに脱帽。
アキコの両親のキャラも素晴らしかった。娘を「アキコ選手!」と呼ぶ大森南朋(父)とオーバーリアクションのMEGUMI(母)のケミストリーがすごい。こんな賑やかな家族で育ってアキコは幸せだったろうな。娘がプータローになったときだけ厳しいのも爆笑した。
宮崎の人って娘をこんなに褒めるんだ。。。何だか素敵な県民性。何だかほんわかして宮崎にすごく興味が湧いてきた。そのうち行ってみたい。
残念だった点
特に不満はなかった。全体的に楽しめたし感動したのだが、126分は少し長く感じてしまった。
もう少し短くまとめたほうが映画としての完成度は上がったような気もする。ただ、東村アキコ先生の実話なので脚色してはいけない部分もあるだろうし、仕方ないではある。
映画的な起伏あるストーリーというより日常系なので長く感じたのかもしれない。
日高先生のモデル:画家・日岡兼三について
日高先生のモデルが気になって調べてみた。本名は日岡兼三 氏だと判明。1946年生まれで、劇中では語られていなかったが奥さんがいた。映画の通り肺がんを宣告され2003年に他界している。
劇中で言及されていたように本当に29歳から画家を志したらしく、異端児として宮崎では有名だったらしい。ゴーギャン(25歳から絵を描き始めて30歳で画家として認知され出した)みたいな人だな。
作品を検索してみたら抽象的だけど引き込まれる凄まじい作品ばかり。惚れ惚れしてため息が出た。これだけすごい絵が描ければ東村アキコや生徒たちに言いたい放題いう資格あるわ…。
コチラのブログ↓が日岡兼三先生の作品をまとめてくれているので、興味がある人は絶対に見てほしい。映画自体の深みが変わる。

こんな凄い絵が描ける人がそれほど有名ではない事実にも驚かされる。もちろん芸術家として有名になるためにはいわゆる“売れる絵”が描けないといけないから、自分の道を突き進むタイプの人ほど有名になれないのかもしれないし、美術協会に所属していなかったことなどが原因だったのかも。
日岡兼三先生の画集を探してみたけどなかった。残念。誰か作品集出してくれないか。。。買いたい。
キャスト
林明子|cast 永野芽郁
日高健三|cast 大泉洋
北見|cast 見上愛
佐藤|cast 畑芽育
今ちゃん|cast 鈴木仁
西村くん|cast 神尾楓珠
川崎くん|cast 森愁斗
大学の教授|cast 青柳翔
女性漫画家|cast 長井短
編集の岡さん|cast 津田健次郎
旅館の女中|cast 斉藤由貴
中田先生|cast 有田哲平
明子の母親|cast MEGUMI
明子の父親|cast 大森南朋
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