ネタバレ考察『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』犯人と沈黙した探偵,Netflix映画

4.0

Netflix映画『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』(Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery)

Netflix映画『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』(Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery)。

  • ストーリーの概要・ラスト結末まで
  • 複雑な事件の全貌、真犯人のトリックと動機
  • 考察:探偵が沈黙を選択した革命的ミステリー

これらを徹底解説していきます!

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ストーリーのまとめ

  • 田舎の教会「永遠なる勇気の聖母教会」を率いていたのは超問題児の神父モンシニョール・ジェファーソン・ウィックス(ジョシュ・ブローリン)

  • 元ボクサーで司祭になったジャド・デュプレンティシー(ジョシュ・オコナー)が、問題を起こしてこの教会へ左遷されていた

  • ウィックス家の過去→ウィックスの母グレイス(Grace)はウィックスの父から遺産の高級宝石・エヴァズ・アップル(Eve’s Apple)を受け取れずに憤死していた。宝石は見つかっておらず、遺産と教会にまつわる怨念だけが残っている

  • 教会でのミサ(Good Friday)の最中、ウィックスが登壇脇の小部屋に入った瞬間に背中を刺されて死亡(“不可能犯罪”っぽい状況)

  • 現場状況などから、容疑者として真っ先に疑われたのが司祭・ジャド

  • 謎を嗅ぎつけて探偵のブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が捜査に入る。ジャドは犯人でないと確信し、彼を助手にして調べを進める

  • 捜査で浮上するのが、教会運営側のマーサ・デラクロワ(グレン・クローズ)、後援者で医師のナット・シャープ(ジェレミー・レナー)、そして教会の管理人サムソン・ホルトなど

  • そんな中、ジャドは夜に死んだウィックスが霊廟から復活するのを目撃
  • しかしナットが宝石目当てで裏切り(宝石目当て)共犯の一人であるサムソンを殺害。ジャドに罪をなすりつける

  • ブランは表面上の“実行犯”としてナットがウィックス殺害を成立させた手口(薬・偽装・刺傷など)を推理で示せる段階まで行く
  • 終盤、ブランは推理の場で途中まで語りつつ、ある瞬間に推理をやめる

  • 黒幕だったマーサは告白し、最後は自死(鎮静剤)で幕を引く

真犯人の動機とトリック

マーサは子供の頃、ウィックスの祖父・プレンティスがエヴァズ・アップル(Eve’s Apple)を飲んで死亡するのを見た。プレンティスは娘・グレイスに真っ当に生きて欲しくて、財産を受け継がせずに自分の中に隠したのだった。

現在、マーサはジャドと口論になったことで、ウィックス神父に宝石のありかを告白してしまう。

ウィックスは実は息子だった後援者のサイにそそのかされ、教会を閉鎖して政治家になろうと考える。

教会を愛していたマーサはそれを知り、ウィックスを殺害して復活させ、教会の権威を取り戻して存続させようと考える。共犯者としてナットとサムソンを使った。

トリックは↓

  • ウィックスが説教の合間に小部屋に入ってすぐに酒を飲むのを知っていたので、酒瓶に鎮静剤を入れる
  • ウィックスが倒れた瞬間に彼の服に仕込んでいたガジェットをリモコンで発動させ、彼が刺されて血を流しているように見せかける
  • 駆け寄ったジャドが死んでいると思い込む
  • 医師であるナットが確認するフリをしてみんなが見てない隙に本当に刺し殺す

その後は、ウィックスの死体の代わりにサムソンを棺に入れて霊廟に入れた。

後日、サムソンは霊廟のプレンティス神父の死体から宝石を取って出てくる。それを監視カメラで捉え、ウィックスが復活したことにしようとした。

しかしナットが宝石欲しさにサムソンを殺害。

それを知ったマーサはナットを殺害し、復活したウィックスがナットを殺したように見せかける。

エピローグ

1年後、後援者はそれぞれ立ち直っていた。

ジャドは教会を「恵みの教会」として再開し、宝石は新しい十字架の中に隠される

『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』考察まとめ

「ダマスコへ至る道」とは?

ブランは教会に後援者たちを呼び、推理を披露する。しかし、核心に迫る前に窓からさす陽光を浴びて「謎は解けない…」と推理を諦めたフリをする。後援者たちは屋外へ出て行く。

真犯人マーサが一生をかけて守ってきた教会をブランも守らなければならないと思ったのだろう。

ブランはジャド司祭から恵みを与えることを教わったと言った。ジャドが建設会社の電話番・ルイーズの悩みを何時間も熱心に聞いてあげているのを見て、心を打たれたのだろう。

そんな出来事を経て、推理中には教会のガラスから陽光が差し込んでくる。

ブラン自身が「ダマスコへ至る道」と言っていたように、このシーンには新約聖書の出来事が擬えられている。

「ダマスコへ至る道」は、キリスト教徒を迫害する立場だったパウロ(サウロ)が天からの光を浴びて一時的に目が見えなくなり、その後アナニヤの祈りによって目から鱗のようなものが落ちて目が見えるようになってキリスト教徒に回心した話。

ブランの「謎は解けない」のセリフは今回の事件に対してというより、“神の御心”が解けないというダブルミーニングになっていたのでは。

ブランが正義を振りかざし真実を暴露する暴力に気づいた瞬間だった。

真犯人の罪が暴露されてない?

真犯人で黒幕のマーサはブラン、ジャド、ジェラルディン署長の前で動機と真相を告白し、自死する。

しかし、マーサの罪が世間に明らかにされたかについてはボカされている。

その後、教会は存続されたのでマーサの罪は公になっていない可能性が高い。

教会の運営側のマーサが殺人に関わったとすれば、さすがに教会の存続は難しいはずだから。

ブランは探偵として沈黙した。司祭のジャドも公にしないだろう。おそらくジェラルディンも黙認したか、もしくは証拠が乏しく死亡したナットとサムソンが罪をかぶる形でマーサの罪は公式記録として残らなかったのでは?

マーサは教会を存続させるためのスケープゴートになった。そのおかげで、ジャドはルイーズなど迷える人々をたくさん救えるだろう。
ブランが真実を暴かなかったのは一定正しかったのでは?とも取れる結末。

歴史上の奇蹟の裏には罪や犠牲があるかもしれないとも考えられる余韻の残るラストだった。

探偵が沈黙させられた話

ミステリーでは、探偵は全知全能の神のような存在だ。事件の外枠=安全なポジションにいつつ、全てを暴露する存在。

映画の序盤でブランは「殺人事件を解くカタルシス」について話していた。しかし、終盤では罪人となってまで教会を存続させようとしているマーサの罪を暴くことが正義なのか確信が持てなくなってしまったのだと思う。

正義を振りかざして真実を明らかにする行為が本当に正しいのか?それこそがブランが解けなかったテーマである。

教会を取り巻く共同体のために、真実を放棄する。ある意味、日本の村社会的な(水戸黄門的な)帰結にも近い。

また、物語序盤でブランが状況的に明らかにおかしいジャドを容疑者ではないと直感したのも理屈ではないように思える。本作は探偵が理屈を超えた倫理に沈黙させられた話と解釈することもできる。

ウェイク・アップ・デッドマン=探偵ブラン自身!

タイトルのウェイク・アップ・デッドマンは、マーサによって殺されたあと生き返ったように見せかけられたウィックス神父を指しているが、同時にブラン自身を指していると思った。

事件を聞きつけて教会に現れたブランは「信仰の謎を解き明かしてやる!」と息巻いていた。信仰なぞかけらもないような振る舞いだった。

しかし最後は死人が生き返るように奇跡的にブランの信仰も復活したようだった(少しだけかもしれないけど)。

ウェイク・アップ・デッドマン(目覚めよ死人)とは、信仰を持たないブランが信仰に目覚める過程を表現していたのではないだろうか。

また、今回ブランが真実を明らかにせず推理を途中で放棄したことは、探偵としての死でもある。

まとめると、ウェイク・アップ・デッドマンは↓↓

  1. 死んだウィックスの復活劇
  2. 一度は死んでいたブランの信仰の復活
  3. 探偵ブランの死

このトリプルミーニングになっていた。

探偵ミステリーは探偵が事件を解き明かして万事解決だ!とたかを括っていた我々視聴者に対しても、ある意味で思考停止の死んだ状態だったのでは?と問いを投げかけていたようにも思える。

そこまで考えるとクアドロプルミーニングか、構造的にすごい映画。

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作品情報とキャスト

項目 内容
邦題 ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン
原題 Wake Up Dead Man: A Knives Out Mystery
公開 2025年12月12日(Netflix)
監督・脚本 ライアン・ジョンソン
ジャンル ミステリー/サスペンス
シリーズ 『ナイブズ・アウト』第3作
主題モチーフ 信仰、贖罪、共同体、真実と沈黙
舞台 アメリカ地方の教会コミュニティ
役名 俳優 役割・立ち位置
ブノワ・ブラン ダニエル・クレイグ 私立探偵。真実を解けるが裁かない選択をする
ジャド・デュプレンティシー司祭 ジョシュ・オコナー 若い司祭。
マーサ グレン・クローズ 教会運営の実務者。
ナット ジェレミー・レナー 教会後援者。
モンシニョール・ウィックス ジョシュ・ブローリン 教会の司祭。
この記事を書いた人

映画やドラマの考察歴5年。映画好き歴20年。映画鑑賞累計2000本前後。ドラマは数百本。Webライター歴8年。いくつかのメディアでの執筆歴あり。映画やドラマの本質を追求するような解説や考察が書けるように日々精進しています。パーソナルな感想に普遍的な何かが少しでも宿っていれば幸いです。

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