ヨン・サンホ監督の韓国映画『啓示』（けいじ、계시록、Revelations）をNetflixで鑑賞。
信仰と復讐の連鎖を扱った一筋縄ではいかないヨン・サンホらしさ全開のサスペンス！
あらすじ、ネタバレなしの感想、キャスト、ラストシーンの考察や忖度なしの感想をまとめました。
Netflix韓国映画『啓示』あらすじ・作品情報
『新感染ファイナル・エクスプレス』『地獄が呼んでいる』のヨン・サンホ監督の最新作。
『ゼロ・グラビティ』や『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロンがプロデューサーを務めている。
ネタバレなしの感想
キリスト教の牧師が神からの驚愕の啓示を受けてしまうキャッチーな設定と裏腹に、展開はわりと地味。
展開はエグいけどテーマ性は渋い。そんな二重奏のような独創的な作品。ひたいに汗を浮かべながらじっくりひたれる。
宗教や人間、トラウマについて考えるのが好きな人にとっては興味深い内容だが、エンタメサスペンスを求める人にとってはちょっと違うかも…となるかもしれない。
ヨン・サンホの作品としては『地獄が呼んでいる』っぽい信仰についての要素がありつつ、ドラマ『ソンサン 弔いの丘』の渋いテイストを取り込んだイメージ。
最近のヨン・サンホ作品の中では1番好き。重厚で人間とは何かを考えさせられる作品が好きな人におすすめ！
韓国映画『啓示』キャスト
ソン・ミンチャン｜cast リュ・ジュンヨル
使命の国教会の牧師。妻と息子がいる。信仰に厚いが、上層部の自分の扱いに少し不満を持っている。
リュ・ジュンヨル出演作（『The 8 Show ～極限のマネーショー～』『梟 フクロウ』『毒戦 BELIEVER』）
イ・ヨニ｜cast シン・ヒョンビン
街の凶悪犯罪課・強行4班に異動してきた刑事。父と2人暮らし。過去にトラウマがあり、クォン・ヤンレと因縁がある。
シン・ヒョンビン出演作（『賢い医師生活』『あなたに似た人』）
クォン・ヤンレ｜cast シン・ミンジェ
街に現れた不審な男性。少女・アヨンを追いかけてミンチャンの教会にやってくる。
シン・ミンジェ出演作（『密輸』『黙示録』）
韓国映画『啓示』ネタバレ・ラスト結末
ミンチャンは「クォンが自分の息子を誘拐したかもしれない」と警察に通報した。
ミンチャンはそのあとクォンの車を追ってキツネ峠まで来た。クォンはミンチャンの尾行に気づき、車を止めて出てきてミンチャンに話かける。ミンチャンは車を降りてクォンの車の中を見るが息子の姿はない。
ミンチャンはクォンが電子足輪を外しているのに気づいた。2人は乱闘になり、クォンが傾斜を落ちて石に頭をぶつけて血をダラダラ流して倒れる。クォンは死んだようだ。ミンチャンはパニックになったが、遠くの山肌がイエス様の顔に見えたことで「これは神の啓示だ」と考え、死体を崖の下に落とした。
妻からミンチャンに電話があり、息子・ヨヌは友達の家に行っていただけだとわかる。
翌日、街の凶悪犯罪課に異動してきたイ・ヨニは、クォンが暮らす地域でシン・アヨンという少女が行方不明になったと聞いて驚く。
クォンは数年前にヨニの妹・ヨンジュを拉致監禁した。ヨンジュはなんとか自力で逃げ出し、クォンは捕まった。しかし精神医学の権威イ・ナクソン教授によって「クォンが父親から10年間にも渡ってDVと性的虐待を受けていたせいで精神が壊れた」と診断される。クォンは世間からの同情を集めて軽い罪になった。ヨンジュはクォンの軽い処罰に精神を病み、自殺してしまったのだ。
ミンチャンはヨニから通報した事情を聞かれて答えるが、山に行ってクォンを殺したことは黙っていた。
その後、ミンチャンは妻を老人ホームへ送った（妻は賛美歌のボランティアをしている）。すると職員から「裏の山から血だらけの男性がやってきたので救急車を呼んだ」と聞いて驚く。クォンは生きていたのだ。ミンチャンはクォンが寝ているベッドへこっそり行き、車椅子に乗せて車に運び、廃墟へ連れて行った。
ミンチャンはクォンを縛って殴り「シン・アヨンがどこにいるか言え！」と叫ぶ。
クォンは「警察を呼べば全部白状する」と笑った。ミンチャンはクォンを部屋に閉じ込め、アヨンのための祈祷会のために教会へ戻った。
ヨニはミンチャンの車を調べて桑の実がついているのを見つけ、近隣の桑の実畑へ。近くに廃墟を見つけて中へ入り、部屋の中に車椅子に縛られているクォンを発見した。
ヨニに見える妹の幻影が「クォンを殺せ」と叫ぶ。
ヨニはアヨンの居場所を聞き出さなければと思い直し殺せなかった。そこへミンチャンが戻ってきてヨニを殴って縛る。
ミンチャンは「神からクォンを殺せと啓示を受けた」と言い、アヨンはすでに死んでいると決めつけた。そして「クォンとヨニが2人で争って死んだように見せかける」と言う。
ヨニは拘束を解いてミンチャンに手錠をかける。クォンが車椅子で階下へ落下しかける。ヨニはクォンの足に巻かれたガムテープをつかみ落下を防いだ。
クォンは「あの子は一つ目の怪物に食われた」と言う。ヨニの手が滑りクォンは落下して死亡した。
ミンチャンは逮捕されたが、取調室では「神から啓示を受けてクォンを殺そうとした」としか言わなかった。
ヨニはイ・ナクソン教授に会い、ミンチャンがなんでも関連づけてしまうアポフェニアという精神的な病にかかっていると聞く。ヨニはクォンが子供の頃に描いた日記を見て、一つ目の怪物とは一つ目の窓がある家のことだと気づいた。クォンは一つ目の窓がある部屋で父に虐待をされていたのだ。
ヨニは近くの取り壊し区域にある一つ目の窓の家を調べる。
クォンは少し前にその区域で働いており、一つ目窓の家を見た。それがトリガーになってアヨンを誘拐に手を染めてしまったのだ。
ヨニは取り壊されそうな一つ目の窓の家の中に入り、縛られていたアヨンを見つけて抱きしめる。
韓国映画『啓示』終わり
韓国映画『啓示』考察
あの子は一つ目の怪物に食われた
クォンは廃墟から落ちる直前に「あの子は一つ目の怪物に食われた」と言ったが、「あの子」とは誘拐されたアヨンのことではなく、幼い頃のクォン自身のことなのだろう。父に虐待されて人格を殺されてしまったのだ。
そこにヨニはある種の仕方なさや諦めを見出し、彼女の中のクォンへの復讐心がやわらいだ（しかし直後にクォンは落下して死亡）。
クォン自身が被害者でもあるという悲劇に気づいたヨニと、すべてを啓示だと思い込んでアヨンすら死んだことにしたミンチャンの対比が今作のキモだと感じた。
クォンを怪物の犠牲者とみるか、怪物自身とみるか視聴者にも問いかけているのだろう。
啓示が断ち切った復讐の連鎖
ミンチャンは「クォンのような人間に味方する奴が多いせいで世間は悪に染まっていく」と言った。
彼の思想は、妹を失ってやり場のない怒りを抱えていたときのヨニと同じだ。
ミンチャンが啓示を受けて狂った行動に出たからこそ、ヨニ刑事はクォンを怒りに任せて殺さず、アヨンを救えたということだろう。
信仰心が厚いはずのミンチャンが救われず、ヨニはアヨンを救い出すと共に自分の心を救った。全てを盲目的に信じることに対しての警鐘と、復讐の負の連鎖をどこで断ち切るのかが同時に描かれていた作品だった。
ミンチャンはすべて啓示のせい、クォンはすべて怪物のせい、ヨニはすべて自分のせいと、それぞれ偶然の出来事を誰かのせいにする共通点があるのも興味深い。
自分以外の何かに責任転嫁したときに悲劇が起こるのかもしれない。
ラストシーンの意味
最後にヨニは刑務所にいるミンチャンと面会し、「アヨンは生きていた」と伝える。
アヨンを死んだことにしていたミンチャンは生きていた事実を受け入れられない。
その後、ミンチャンは独房の壁の汚れの中にキリストの顔のようなものをみる。その汚れをこすると悪魔のような表情に変貌し、ミンチャンは驚きを浮かべる。
さまざまな解釈ができるが、ミンチャンは自分に啓示を授けていたのは神で悪魔だった…と思ったのかもしれない。
また、啓示が嘘だったとしても自分は啓示に従っていただけでどこまでも責任はないと考える姿勢も見てとれる。
救いようはないが秀逸なラストだった。
韓国映画『啓示』感想と評価
良かった点
ソン・ミンチャンを演じたリュ・ジュンヨルが素晴らしかった。信仰に厚いけど妻に不倫された怒りに任せてゴキブリを殺したり、新しい教会の主任牧師になりたすぎたりする人間っぽさも持っている。
彼のような善人が自分の欲望を押し殺してきた結果、ストレスが暴発して啓示が見えてしまうという皮肉がたっぷり楽しめた。
リュ・ジュンヨルとシン・ヒョンビンの微妙な表情の変化から心情がうかがえて面白い。計算された演技だと思った。絶妙な演技合戦が本作の1番の見どころかな。
微妙だった点
「信仰の危うさ」と「復讐の負の連鎖」が本作の2大テーマだったと思うが、この2つのテーマがそこまでしっかりブレンドされていない印象を受けた。（別にそれで良いと思って作られたのかもしれないが）。
あとは全体的に話の内容が渋すぎるので、『地獄が呼んでいる』くらいエンタメ性があっても良いと思った。
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