Netflix映画『それでも夜は訪れる』(それでもよるはおとずれる)(Night Always Comes)を鑑賞!
ヴァネッサ・カービーが家を強制退去させられそうになり、一夜の暴挙に出る女性を熱演!
- あらすじ・作品情報・キャスト
- ネタバレなし感想
- ネタバレ・ラスト結末解説
- 考察と感想評価レビュー
これらを解説。
ネタバレなしで見どころを確認したい人。ネタバレ有りで結末の解説や考察までチェックしたい人向け。好きな項目からどうぞ。
映画『それでも夜は訪れる』あらすじ・作品情報
主演のヴァネッサ・カービーがプロデューサーも務めている。
あらすじ:急激な物価高騰に揺れる都市、ポートランド。リネット(ヴァネッサ・カービー)は現在暮らしている家を家主から購入しようとする。2万5000ドルの頭金を用意するが、母・ドリーン(ジェニファー・ジェイソン・リー)がそのお金でなんと新車を購入。
24時間以内に2万5000ドルを用意しなければ家から追い出されてしまう。家がなければ、障害を持つ兄・ケニー(ザック・ゴットセイゲン)が福祉施設に入れられてしまう。
リネットは過去の呪縛とも呼べる人間関係を頼り、一夜で大金を稼ごうとする。しかし最悪の事態が彼女に降りかかる。
キャスト
リネット役|cast ヴァネッサ・カービー(『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』『私というパズル』『ナポレオン』)
母ドリーン役|cast ジェニファー・ジェイソン・リー
兄・ケニー役|cast ザック・ゴッツァーゲン(ダウン症の俳優(『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』)
グロリア役|cast ジュリア・フォックス
コーディ役|cast ステファン・ジェームズ
スコット役|cast ランドール・パーク(『アントマン&ワスプ』シリーズ)
トミー役|cast マイケル・ケリー
ブレイク役|cast イーライ・ロス(『グリーン・インフェルノ』『サンクスギビング』の監督)
ネタバレなし感想
評価は5点中4.5点!
明け方から明け方までの24時間をヴァネッサ・カービーの熱演でお届けするヒューマンドラマ×サスペンス。
追い詰められた主人公に感情移入し、狂ったアメリカ社会の現実をこれでもかというくらい追体験できる良作。アメリカの闇をガッツリ堪能できます。
ヴァネッサ・カービーの演技がガチで、終始画面に引き込まれる。
その分、女性が搾取される構造など非情な現実を突きつけられて苦しいけど、強烈な社会派サスペンスとして見る価値は十分!
ポートランドのダークサイド(夜の面)を十二分に描いているため、ドキュメンタリー的な見方もできる。アングラな場所を観光するようなエンタメ性もあるのが魅力。
楽しいだけの映画が好きなら向かないけど、社会派や深い物語を求めている人にはオススメ!
ラストではヒューマンドラマとして極めて本質を突いた巧妙な問いが投げかけられる。
ネタバレ・ラスト結末の解説
2万5千ドルどうする?
リネットは朝5時に起きてパン工場のバイト。それが終わると障害を持つ兄・ケニーを連れて大学の講義に出て、夕方からまたバーで仕事という生活をしていた。
リネットは金を使い込んだ母・ドリーンに激怒。しかし金は戻ってこない。
リネットは何度か売春をしている裕福な男性・スコット(ランドール・パーク)に連絡して会う。2万5千ドルを貸して欲しいと頼むがキッパリと断られ、抱かれて500ドルをもらった。
リネットはスコットの高級車を盗み、スラム街に放置する。
犯罪行為に走るリネット
リネットはかつての売春仲間の女性・グロリア(ジュリア・フォックス)の家へ。グロリアは現在、議員の愛人になっており高級マンションに住んでいた。リネットはグロリアが出かけたあとでバーの同僚・コーディ(ステファン・ジェームズ)と一緒に金庫を盗む。
金庫をコーディの知り合いの半グレアジトへ持っていって開けてもらう。中には大金と高級時計とコカインが入っていた。しかし金庫が盗まれたものだと知った半グレが激怒して争いに。リネットは工具をカールという男性に投げる。カールは重傷を負って痙攣した。
金庫の大金とコカインをバッグに入れてはきたが、1万9千ドルしかなく、あと6千ドル足りない。
リネットとコーディは逃げる。リネットは知り合いの家に預けていたケニーを迎えにいき、車に乗せた。
リネットはコーディに盗んだスコットの車を買ってくれないか?と提案。コーディはOKした。しかし車のある場所へ行くと、コーディは金を奪って逃げようとする。激怒したリネットはコーディを車で撥ね、車の鍵だけ置いて去った。
ケニーはリネットの行動に困惑していた。リネットは家族の家を手に入れるためだと宥める。
ラスト結末:過去のトラウマとの対峙
リネットは元恋人のトミー(マイケル・ケリー)に会う。リネットは16歳の頃にトミーに売春させられ、心に深い傷を負って自殺未遂をした過去がある。リネットはトミーと口論になるが、コカインを買ってくれるブレイクの住所を教えてもらう。
ブレイク(イーライ・ロス)がいる場所は、かつて自分が出張売春に行ったことがある屋敷だった。屋敷にはクラブがあり、人が大勢いてドラッグや売春の気配があった。
リネットはブレイクにコカインを売るが、金を払うから抱かせろと提案されて激怒。ガラスで彼を殴る。リネットとケニーはなんとか屋敷から出て家に戻る。
金は手に入った。しかし、リネットは母・ドリーンと話し、彼女が家族を捨てた父親の持ち物だったこの家を嫌いで欲しくないこと。すぐにキレて暴走するリネットと一緒に住みたくないことを聞く。
ドリーンはケニーを連れて知人の家に引っ越すと話す。
リネットは家を買うのを辞め、これからは自分のために戦うと誓う。リネットは兄・ケニーに別れの挨拶をする。ケニーは「いつだってお前の兄だ。いつでも守る」と言った。
リネットは車で違う土地へ旅立った。
映画『それでも夜は訪れる』終わり
『それでも夜は訪れる』考察
アメリカの家賃高騰事情がホラー
舞台となったポートランドはNIKEの拠点となっているなどクールな都市だけど、人気とインフレで家賃が上昇していわゆる“一般人”が暮らせないレベルに来ている。
平均家賃が$1,672(約24万円)というから驚き。1ベッドルームの平均家賃は$1,260 (約19万円)で、東京の1ベッドルーム平均9〜12万円と比較しても断然高い(普通の仕事してたら人生詰む…)。
主人公・リネットが家を購入しようとした理由は、家主が売却を決めたせいで強制退去になるから。
他の場所の賃料も異常に高騰してるから「今の家を買い取る」選択肢しかない。家がないと障害者認定されている兄・ケニーは施設に連れて行かれてしまう。
映画『それでも夜は訪れる』では普通の人々が住まいを守れなくなる危機感が描かれており、主人公リネットの夜を追い詰めている。
この街(ポートランド)のリアルな夜の顔(家賃高騰と売春とドラッグ)が怖い。
『それでも夜は訪れる』の意味は、「非情な現実が否が応でもやってくる」だと考えた。
究極の自己責任論
最後のリネットと母・ドリーンの会話が本質を突いていた。
父親が蒸発したこともあり、リネットは16歳の頃に半グレの彼氏・トミーと付き合う。リネットはトミーを愛していたが、トミーは彼女を売春させる。
リネットは母親が必要だったと叫んだ。
ただ、ドリーンの話ぶりからするに、リネットはキレやすく、どうしようもない面があったようである。さらに深掘りするなら、リネットが10代の頃に不在だったのも、売春などで稼いでいたためかもしれない。つまりリネットのためでもあった。
リネットは被害者だった。しかし、現在は加害者でもある。彼女は友人から盗み、他人に重傷を負わせ、ドラッグを売りつけた。
本作の素晴らしい部分は、被害者からいつ加害者になったのかのつなぎ目がシームレスになっているところ。
リネットはいつから自分が“加害者”になってしまったのか自覚していない。
人はあらゆる面で、被害者でも加害者でもある。被害者意識での振る舞いが加害に回っているケースが多々ある。子供の頃に辛い経験があったとしても、加害の免罪符にはならない。
それに被害者意識ばかりだと自分が変わるきっかけを逃してしまう。
(もちろんリネットの背景はかなり悲惨なので同情の余地があるが)
ヴァネッサ・カービー演じるリネットはそんな普遍的なパーソナリティを提示し、“被害と加害の区別のしようのなさ”を表現していた。
脱構築(被害者と加害者の二項対立からの脱却)のカタルシスがあった。
ラストシーンで幹線道路が示すもの
幹線道路を行き来する車の数々を俯瞰で映したものがラストシーンだった。
リネットが未来へ進むか、過去のような生活に戻るのか?という問いを投げかけていたのだろう。
リネットは家族のために戦ったが、これからは自分のために戦うと言っていた。彼女が新しい未来へ向かっていくと信じたい。
またリネットは母に「私が聞きたかったことが聞けた…」と言っていた。
自分が暴走気味であること、自分だけが兄・ケニーを守っているわけではないこと、家や家族の呪縛に縛られなくていいこと、などが聞きたかったことだと考える。
ちなみにリネットは「自分が唯一知っている方法で戦った」とも言っていたが、これは女性として体を使うこと、人から盗むことなど、過去の環境によって体得してしまったネガティブな要素を指していると感じた。
感想と評価
家を強制退去させられる崖っぷちの女性を24時間で描くコンセプトが素晴らしかった。
最近はNetflix韓国映画『84m2』も住宅問題を取り扱っていたが、世界的に危機を感じる現状なんだろうな。
ヴァネッサ・カービーは『私というパズル』とかを見て思うけど、ほんと演技力抜群。人を引きこむ力がある。

家を買うべきでないと悟り、ベッドに横になるリネット。「もう休め。横になれ」の悟りの表現に見えて心打たれた。
リネットはこれまでの人生で生き急ぎ、ゆっくり眠ったことはなかったのではないだろうか。
あとは、リネットが実は加害者でもあったと最後に突きつけられる点は、いわゆる犯人は自分でした系のサスペンスのプロットにも通じるものがあり、カタルシスがあった。
被害者・加害者問題や、自分の非を受け入れて自我崩壊するラストを堪能できるかどうかで評価が変わりそうな作品だ。おそらく、社会の現実を突きつけられる可哀想な女性!と表層的に見てしまうとあまり面白く感じられないのでは?
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