映画『でっちあげ 』ネタバレ感想,謝罪したら人生終了~殺人教師と呼ばれた男の考察と実話解説

4.0

映画『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』

映画『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』(でっちあげ さつじんきょうしとよばれたおとこ)を鑑賞。

綾野剛さんが追い詰められる教師を熱演。柴咲コウさんの氷のような表情が恐ろしい。

実話がもとになっており、教育現場のいじめ事件から日本が抱える社会問題までが描かれた射程の広い意義深い作品だった。

  • あらすじ:元ネタ
  • ネタバレ・ラスト結末
  • 考察:人間力が低下した日本社会
  • 忖度なしの感想と評価

これらの情報をまとめました。

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』あらすじ・元ネタ

映画『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』の綾野剛

©︎「でっちあげ」製作委員会

公開:2025年6月27日
長さ:2時間9分
監督:三池崇史(『悪の教典』『怪物の木こり』)
脚本:森ハヤシ(『東京リベンジャーズ』『SAND LAND』)
撮影: 山本英夫
原作: 福田ますみのルポタージュ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」
主題歌:キタニタツヤ「なくしもの」

2003年に起こった福岡市「教師によるいじめ」事件と、それを取材した福田ますみのルポルタージュ「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」が元になっている。

映画『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』あらすじ:小学校4年生の担任を勤めている薮下誠一(綾野剛)は生徒の氷室拓翔の母・律子(柴咲コウ)に家庭訪問の時間を変更され、夜9時に自宅に呼び出された。

律子は小学校の頃にアメリカに住んでいたことや祖父がアメリカ人だと話す。薮下は「だから拓翔くんも顔がくっきりしているんですね」という趣旨の発言をした。

その後何日か経った後で、律子が夫・拓馬(迫田孝也)を連れて学校へ乗り込んでくる。薮下先生が拓翔に酷い体罰を加え、アメリカの血が混ざっていることで人種差別をし、さらには自殺の強要までしたというのだ。

薮下は拓翔が他の生徒と喧嘩をした際に手の甲で軽く頬に触れて叱った覚えはあるが、その他の体罰については一切覚えがなかった。しかし校長の段田(光石研)と教頭の都築(大倉孝二)の2人は「とりあえず謝罪しろ」と言う。
薮下は律子と拓馬に、やっていないことはやっていないと説明するが、2人を怒らせるだけだった。

保護者会が開かれ、薮下は場を収めるために仕方なく体罰やいじめについて認めて謝罪する。

市の教育委員会も薮下の体罰を認めた。薮下は停職6カ月の処分を受ける。

その後、律子は週刊誌の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)に一連の事件を伝える。鳴海は「殺人教師」というセンセーショナルな見出しの記事を出した。薮下は全国から誹謗中傷を受けることになる。

薮下は精神崩壊しかけたが、妻・希美(木村文乃)の「やっていない事実を広めるために立ち向かおう」という言葉に励まされてなんとか持ち堪えた。

薮下は律子によって訴えられ裁判に出廷。弁護士の湯上谷年雄(小林薫)と共に、いじめや体罰の証言を覆すべく立ち向かう。

ネタバレなし感想:ディスコミュニケーションの恐怖

綾野剛さんと柴咲コウさんのやり取りの食い違いが恐ろしい。一部だけ切り取って報道するメディアも恐ろしい。ディスコミュニケーションの恐怖を描いた見応え抜群の作品だった。

映画『羅生門』形式で、薮下と律子の証言がとことん食い違う。

小学校を舞台にしていることもあり、最近だと是枝裕和監督の『怪物』と非常に似たテイストだと思った。
ただ実話をもとにしていることもあり、『怪物』と比べると結末が明確でより具体的なものになっている。

綾野剛さんが涙を流すシーンが多く、猫背になって追いつめられた教師を熱演している。氷のような表情の柴咲コウさんも印象深い。演技面でも一見の価値あり。

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映画『でっちあげ』ネタバレ・ラスト結末

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』

律子側は大和紀夫(北村一輝)率いる550人もの弁護団をもって薮下を訴えた。

薮下は殺人教師だという噂が広まっていたため誰も弁護を引き受けてくれない。最後の最後でようやく湯上谷弁護士が担当してくれることになった。

律子側は、拓翔くんが重度のPTSD(精神的トラウマ)を受けた証拠を提出してくる。

湯上谷弁護士はPTSDの検査を担当した精神科医の1人から、PTSDの認定が母・律子の証言のみによってなされ、実際は拓翔くんにPTSDの症状は見られなかったと情報提供を受けた。

薮下はいじめや暴力はなかったと証言してくれる保護者を探すが、みんなに断られる。薮下は保護者の山添夏美(安藤玉恵)のところへ行って泣いて頼むが、その様子を鳴海記者に撮られ、また週刊誌で不利な情報が流された。

薮下は山添から「裁判に出るのは嫌だけど知り合いから、律子にアメリカの血が混ざっているとか昔ボストンに住んでいたという話は嘘だ」と聞いた。

裁判の判決が出る。薮下がいじめや差別をした客観的な証言がないこと、アメリカ人の血統に関する話も虚偽だったこと、PTSDも疑わしいことなどから、薮下側が9割方勝訴した

しかし、体罰に関しては一部が認められる格好となった。

薮下は教壇に復帰する。それから10年が経過。息子の勇気が教員を目指して教育実習を受けていた。

湯上谷弁護士がやってきて、不服申し立ての結果、ついに体罰に関してもなかったと認められたと話す。薮下は喜んだ

薮下は律子や拓翔がどうしているだろうと考える。

考察まとめ:人間力が低下した同調圧力社会

デジタルな思考回路

虚偽の証言と同調圧力の恐怖が可視化されていて、その構造についての学びがあった。

問題の根幹は、加害者とされる人よりも被害者側の同調圧力が圧倒的に強いこと。加害者(とされる人)の言い分が正しいと思っても言いづらい。誰もが加害者側に回りたくないからである。

教育現場という客観的な判断ができる第三者の証言が得られない→情報が乏しい中で判断するなら被害者側に立って意見を述べるしかないというループが恐ろしかった。

さらに具体的にいうと、「(いじめを)した、していない。(差別的な言葉を)言った、言ってない」と0、100ベースでしか思考できない校長や世間の人たちの人間力の低下が垣間見えた。

極めて確定記述的(意味が固定されること。例えば血筋の話をしたら勝手に差別発言だとされる)なやり取り。アナログではなくデジタルな思考回路しかないかのよう。

市の教育委員会も謝罪の事実だけを頼りにいじめを認定していた。謝罪の言葉を口にしたが最後、言葉尻だけを追いかける無意味で理不尽なやり取りは見ていて心地悪かった(映画が面白くなかったわけではない)。

校長や教頭は、薮下を1人の人間としては見ていない。場を丸く収めるために謝罪をさせ、それが完全に悪だった意味になる。もっと以前の日本だったら、その場で謝罪はさせてもアフターケアもする、良い意味でダブルスタンダードな対応もできたのでは?

アメリカ云々の話があったが、逆に日本人の人間力が著しく低下していて、以前の日本人なら持っていたはずのダブスタと根回しで場を収める能力が欠如しているのでは?と考えさせられた。

日本に住む=同調圧力社会は避けられないかもしれないが、大人たちが人間力に欠けていれば同調圧力の悪い面ばかりが出てしまう。

同調圧力によって誰も加害者側とされる薮下を等身大の人間として見ようとしない。悪いのはモンスターペアレントの律子だとは思うが、今の日本社会の大きな問題が提示された作品だと感じた。

あとは薮下が最後に自宅で希美と話しているシーンで、会話が終わると仏壇のおりんを鳴らしていたが、希美は亡くなっているのか?希美の姿はなく声だけだったので気になった。

実話について

ちなみに本作を鑑賞後に当時の事件について少し調べてみたが、映画の内容はほぼ実話に沿っている。

児童が他の少年と喧嘩した際に仲裁して頬を軽く叩いたことがある。ランドセルが落ちているのに誰も拾わなかったからゴミ箱に捨てた。これらが事実であとは認定されていないようだ。

今の基準で考えると確かに生徒に触れるだけで問題にはなるかもしれないが、殺人教師として社会的に抹殺されるほどのことでもないように思う。

(ちなみに私が小学生の時は叩かれたり蹴られたりは割と普通。社会通念は時代と共に変化するので善悪の判断は難しい)

またメディアがいじめ事件があったクラスの生徒に聞き取りをしたらしいが、暴力などはなかったらしい。

しかしメディアは生徒の親側の証言を鵜呑みにして教師を悪と報道してしまったようだ。

映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』感想と評価

良かった点:SNS社会に通づる問題提起

実話の福岡市「教師によるいじめ」事件が起こった2003年はまだSNS隆盛の時代ではなかったが、『でっちあげ』の物語はSNS社会の現代において意義深いと思った。

先ほど書いたように、問題の当事者ではない人が大半のSNS社会においては被害者側に回るしかない同調圧力が大きなパワーを持つ

加害者とされる側が正しいと言ったら自分も叩かれる。だから、問題の真相を突き止めようというような意識の高いひと意外にとっては、「被害者の目線に立って発言」もしくは「静観」の2択になる→結果、被害者側の主張がどんどん大きくなる。

実際に加害者側が悪いならそれでいいのだろうが、冤罪だとタチが悪い。薮下先生のように理不尽に社会的に抹殺されることになる。

私自身を顧みてもそうだが「冤罪のケースは少ないだろう、被害者側が可哀想だし主張も正しいだろう」というバイアスに基づいて大小さまざまな事件を判断し、そして「静観」してしまっている気がする。

映画『でっちあげ』を見たことが自分自身の中に宿るバイアスを見直すキッカケになった。

キャストの演技は素晴らしかった。綾野剛さんと柴咲コウさんはもちろんだけど、段田校長を演じた光石研さんも光っていた。こんなことなかれ主義な役職者多そう。光石さんはこういう役が本当に上手い。あと、保護者を演じた安藤玉恵もすごくリアリティがあってよかった。

残念な点:内容が分かり切っている

ダメな点というか、実話をもとにしているので仕方ないことだけど、薮下先生が冤罪なのが分かり切っていたのでストーリー上の驚きはなかった。

2003年当時、私はまだニュースなんか見ない学生だったし、映画の前に結末を知るのもなんだかと思って当時の事件を調べもしなかった。なので映画を見るまで実話の内容も知らなかった(不勉強だけど)。

映画が始まると序盤の律子の目線で薮下のひどいいじめの数々、頭パーン、ピノキオ、うさぎなどが描写されるが、教師がやるいじめとしては全くリアリティがないため、「あ、冤罪なんだな…」と冒頭ですぐにわかってしまう。

なので『羅生門』形式(当事者の証言が食い違う)にする意味も薄かったと感じた。演出的には面白いけど、どっちが嘘を言っているのか一瞬でわかるつくりになっていた。

自分自身を擁護するバイアスによって当事者たちの言い分が少しずつ食い違う話ではなく、明確に律子の「でっちあげ」とわかるような内容だった。

「母親・律子が子供に都合の良い発言をするのも心情として理解できる」という感じではなく、虚言癖レベルの普通にヤバい人だったので、証言の食い違いはあるものの薮下に感情移入する以外に選択肢がない。

そういう意味では『怪物』とシチュエーションは近いが、テイストは別物。

(繰り返しになるが実話を映画にしているので仕方ない部分ではあるけど)

まあそもそも『でっちあげ』のタイトル自体が教師が冤罪だと言っちゃってるけど。

まとめると、映画『でっちあげ』は社会問題に対しての自分の関わり方を考えさせてくれる良作でキャストの演技も素晴らしかった。ただストーリーに意外性を期待する類の作品ではなかった。

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映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』キャスト

薮下誠一|cast 綾野剛(『地面師たち』『新聞記者』)
薮下希美|cast 木村文乃
氷室律子|cast 柴咲コウ
氷室拓翔|cast 三浦綺羅
氷室拓馬|cast 迫田孝也(『御上先生』)
鳴海三千彦|cast 亀梨和也
段田重春|cast 光石研
都築敏明|cast 大倉孝二
前村義文|cast 小澤征悦
箱崎祥子|cast 美村里江
堂前|cast 髙嶋政宏
山添夏美|cast 安藤玉恵
藤野公代|cast 峯村リエ
戸川|cast 東野絢香
橋本|cast 飯田基祐
大和紀夫|cast 北村一輝(『グランメゾン東京スペシャル』)
湯上谷年雄|cast 小林薫

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