北野武監督の最新映画『Broken Rage』(ブロークン レイジ)をアマプラで鑑賞。
前半はアウトレイジっぽくてめちゃくちゃカッコよかったけど、後半はぶっ飛びすぎて…。
ストーリーのあらすじネタバレ解説と、忖度ゼロの感想・良い点・悪い点をぶっちゃけます!
インタビュー映像からコンセプトの考察もしてみました。
『Broken Rage ブロークン レイジ』あらすじ・作品情報
キャスト↓
ねずみ|cast ビートたけし
井上刑事|cast 浅野忠信
福田刑事|cast 大森南朋
マスターの吉田|cast 仁科貴
金城|中村獅童
富田猛|cast 白竜
田村|cast 宇野祥平
ホステス|cast 馬場園梓
ターゲット茂木やすお|cast 長谷川雅紀(錦鯉)
眼科医師|cast 鈴木もぐら(空気階段 )
感想(ネタバレなし)
前半はいつもの北野武作品みたいなバイオレンスと狂気が楽しめるのだが、30分くらい経つと物語は終わり、後半は同じ物語で役者たちがボケまくったセルフパロディに大変身。
第81回ベネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門に出品したところまで含めてギャグ(笑)。
映画『首』(2023)をさらにブーストさせたような悪ふざけっぷりに、こんなのアリか?と唖然とした。革新的ではあると思うが、正直いって映画としては?マークがつきまくる破壊的な作品。過去の北野武作品ほど楽しめなかった。
映画を楽しむというより、映画監督であり芸人でもある北野武の脳内の二面性をひたすら見せられている感じ(後の項目でコンセプトを徹底解説)。
『Broken Rage ブロークン レイジ』ネタバレ・ラスト結末解説
シリアス編
Mからの依頼を受けたねずみ(ビートたけし)はキャバクラで大黒たかあきという人物を銃で殺害。
その後、いつもの喫茶店・湖でマスターの吉田から封筒を受け取る。数百万の報酬と駅地下のコインロッカーの鍵が入っていた。ロッカーを開けると、ヤクザの茂木やすお(長谷川雅紀)の写真が入っている。彼が次のターゲットだ。
ねずみは茂木が通うスポーツクラブに清掃員として潜入し、風呂場で彼を溺死させた。
ねずみが喫茶店へ行くと、井上刑事(浅野忠信)と福田刑事(大森南朋)に殺人容疑で逮捕される。大黒を殺したときにホステス(馬場園梓)に顔を見られたのだ。
井上と福田はねずみを殴る。2人は「喫茶店の吉田からお前がMという人物から依頼を受けていると聞いた」と話し、「覆面捜査官として警察に協力すれば、これまでの罪をなかったことにして自由な暮らしをさせてやる」と取引を持ちかけた。ねずみは仕方なく引き受ける。
ねずみは井上たちのいう通りにバーで喧嘩をふっかけてきた客を倒す。その場にいた若頭の富田猛(白竜)がねずみに「金城組長(中村獅童)のボディーガードにならないか?」と持ちかける。
ねずみは金城組長の命を狙う刺客を殺すなど、手腕を発揮する。
井上と福田はねずみにヘロインに混ぜ物が入っているブツを渡す。ねずみはそれを金城に見せた。
金城は「薬物をパッケージングしている田村(宇野祥平)を調べろ」という。ねずみと富田が田村を連れてきた。田村は「混ぜ物など知らない。ブツに傘増しなどしていない」という。
金城はブツの取引先と直接会って混ぜ物がないことを確認。ホテルで本格的な大取引をする。そこへ井上と福田が突入してきた。ねずみは隣の部屋へ逃げた。1人の警官がねずみを追い、銃声が響く。
金城たちは全員逮捕された。
ねずみが部屋から出てくる。逃げて撃たれたと見せかけた芝居だったのだ。井上と福田はねずみの自由を約束した。
後半のSpin off(コメディ編)
ストーリーは前半と一緒だが、ねずみが足をぶつけまくる、コケまくる、他の登場人物もずっとボケまくる展開になっている。
コインロッカーのキャリーバッグに入っていたのは依頼内容を伝えるメッセンジャーで、ターゲット・茂木の情報を口頭で述べるのだが、紙に書いてある内容と全く同じ。
そしてそのメッセンジャーは実は警察で、ねずみは仕組まれて捕まった格好となる。
覆面捜査官としてヤクザに潜入するが、本当に覆面をつける。
ねずみが田村の仕事場に行った際にはなぜか劇団ひとりが登場し、椅子とりゲーム大会が開催され、ねずみが優勝する。
ラストでは大取引でねずみが死んだと見せかけるつもりが、途中で出てきて金城と富田に裏切り者だとバレてしまう。
井上はMの正体が富田だと突き止める。そして、本当は若い組長・金城が年配の富田の舎弟だという話題で盛り上がった。
Spin off & off
ねずみがいつもの喫茶店に入る前にコケて終わる。
『Broken Rage ブロークン レイジ』感想と評価
良かった点
前半のねずみ(ビートたけし)が人を3人も銃殺したあとで鼻をすする仕草とか、ランニングマシンを使っているときの表情とか、とにかく怖かった。やっぱり北野武のバイオレンスや狂気は一味違う。今回は片鱗だけで満足感まではいかないが、何気ないシーンに背筋がゾクッとする。
前半のシリアスパートも結構笑えるシーンが多かったので、どこまでシリアスさを意識しているかわからないが、目を引く演出がたくさんあった。
設定や演出からしてふざけていてシュール。錦鯉の長谷川雅紀さんの背中に錦鯉の刺青が入っていたり、若頭の富田猛(白竜)、若くねえじゃねえかバカやろー!の設定など。なんで若頭が組長よりだいぶ年上なんだよ!
ねずみという名前も、スパイのことを隠語で“ねずみ”って言うんだからそのまんまのネーミングじゃん。殺し屋のくせに最初から覆面捜査官コースが決定された名前になっているのがクスッと笑える。
インタビューで語っていたように、お笑い=暴力、暴力=お笑いという2つの側面を持たせたのだと感じた。
Amazon側から「好きに作っていいですよ」って言われて、「その言葉、本当だろうな?オイラが好きに作ったらどうなるか見せてやる」というメンタリティで制作してそう。
警察での面通し(めんとおし/容疑者たちを並べて目撃者に確認させる)は映画『ユージュアルサスペクツ』のオマージュだろうか。
ねずみに指令を出すのがMという人物なのも、007の設定と同じだ。
後半コメディパートの面通しでは、容疑者候補が女子高生や子供、病人で、消去法でねずみしかあり得ない。その状況に「俺に決まってるじゃねえかバカやろー」というシーンに笑った。
前半のシリアスパートと後半のコントパートに分けたことで、北野武とビートたけしの二面性を表現していたのだと思う。
ねずみのアパートには青と白の傘が2つかかっていた。これは2人の人物がいるということ。「俺の中にシリアスなヤツと全部笑いに変えちゃうやつの両方がいる…」そんな北野武の独白のような斬新な映画だった。
タイトルのBroken Rageは日本語にすると「壊れた怒り」という意味だ。
アウトレイジとの比較の意味があるのか?と思いきや、北野武監督によると、自分のキャリアを破壊する意味で付けたのだという。
これまでの北野武映画の裏には、芸人ビートたけしのこんな妄想がありました…そんな告白にも見える。(こういう解説も鼻で笑われそうだけど…)
とにかく、世界の北野は、世界をあざ笑う北野でもあった(笑)。天才の感性は凡人にはうかがいしれない。
北野武のインタビュー映像から意図を考察
上記の記者会見&インタビューの動画を見ると、北野監督はネット配信でお茶の間で見られることを意識したため、ブロークンレイジを編集段階でだいぶバッサリカットしたようだ。ワンシーンワンシーンテンポが早すぎるのはそのため。
前半のシリアスパートで物足りなさを感じた人も多いようだが、お茶の間で見るなら“間”はいらないか…的なノリでカットされまくったようだ。モバイルでの視聴を想定して、小さな画面なら長い間は必要ないと考えた結果、半分くらいの尺になった模様。
別のインタビューでは、後半を前半のパロディにする構成だったためにパロディのもとになる前半パートにあまり時間を割かないようにしたとも語られていた。
パロディは普通誰もが知る名作からの引用が多いが、前半でパロディもとを作って後半をパロディにするというのが世界初のキーコンセプトとのこと。
そして北野監督の意図としてはブロークンレイジで絵画におけるキュビズム(パブロ・ピカソのような多視点の絵)やフォーヴィスム(アンリ・マティスのような心の色彩を映す絵)をやりたかった模様。
デヴィッド・リンチ監督は映画でシュールレアリスムを表現していた(北野武は『ワイルド・アットハート』がお気に入りらしい)。
「それならオイラはキュビズムだ!」となったのかもしれない。合戦とコントを融合させた『首』からその傾向はあった。
キュビズム的に捉えるとブロークンレイジは、同じ物語(絵画)に複数の視点(シリアスパート/コメディパート)を入れ込むコンセプトだったとわかる。
フォーヴィスム的な要素は、途中で覆面被ったり、ネズミになったりするところだろうか…。
とにかく北野監督はブロークンレイジで映画の進化の可能性も目論んでいたよう。つまりは映画の可能性についての映画だったということ。やはり天才の考えることは違う。
残念な点・ひどい点
実験的な作品を作ったのはわかるけど「いやコレ、映画としてどうなの?」というのが本音。前半はまだ面白いけど、後半はずっとビートたけしのボケを見せつけられる構成でつまらない。正直、後半はキツかった。
1時間ちょっとの映画だけど体感は2時間に感じた。
映画『首』の場合は、シリアスな戦国のシーンが大半で、その中にちょこちょこBL要素やネタ要素が突っ込まれるのでまだ全然楽しく見ることができた。
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ただ『Broken Rage』(ブロークン レイジ)の場合は、完全にシリアスとコメディパートを分けたため、後半に集中力が持続しなかった。キュビズムをやるにしても『首』のような構成にした方が良かったのではないか。
途中で「時間調整!」というサブタイトルが差し込まれ、配信を見ているていのネット民による「尺が足りないの?」「金返せ!」的な書き込みがメタ的に入り込む演出は興味深く、これもキュビズム的なコンセプトなのだろう。ただ書き込みのシーンも面白くはないしキツかった。配信を見ている視聴者をあえて怒らそうとしている?
Brokenというタイトルが示す通り、映画という概念の破壊(プラス新たな創造)が主な目的なのだろう。北野作品はほとんどネット配信で見られない。Amazonのことも嫌いで配信のフォーマットを小馬鹿にしているのかもしれないw。
コンセプトとしては面白いが、実際に配信を見ている側からするとたまったもんじゃない(笑)。
下記の記者会見での北野武監督の話や態度を見るに、そこまでふざけて作った感じでもない。ふざけた作品を真面目に作ったのだろう。もしかすると、そもそも会見での話は全部ウソで全てたけしの手のひらの上なのか?
とりあえずブロークン(壊れた)と名付けられた通り、映画という概念に対しての破壊のコンセプトはヒシヒシと伝わってきた。先程解説したキュビズム的な意図はありつつも、「映画に真剣になるなんてバカみたい」っていう主張までひっくるめて作品にしちゃったイメージ。
北野武監督はこの先どこへ行ってしまうのだろうと不安になる。
『HANA-BI』や『アウトレイジ』などなど、過去の北野武作品を見ると彼が天才なのは間違いないが、天才すぎてもう私のような凡人がついていけない領域に行ってしまったのか?
もう78歳なので…と思う人もいるかもしれないが、前作『首』は良かったし、トークでの武節も健在だし、年齢だけの問題ではなくやはり方向性なのだと思う。
北野監督は以前やったようなことはもうやりたくないからどんどん新しい方向にチャレンジしているのだろうけど、『HANA-BI』みたいな作品がまた見たいなあ。
お笑いと映画の境界線を溶かすような実験的な映画には正直いってついていけませんでした。でもこれからも応援してますのでお体に気をつけて挑戦を続けてください。
2025年話題作レビュー↓
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