実写映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(At a Confessional)を鑑賞。
岸辺露伴(高橋一生)がイタリア・ヴェネツィアの教会で不思議な懺悔をする男と出会う!
- あらすじ
- ネタバレ・ラスト結末の解説
- ラストが伝える本当の恐怖(考察)
- 医者のペストマスクの意味(考察)
- 原作との違い
- 忖度なしの感想と評価:良い点・悪い点
これらを徹底解説していきます!
映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』あらすじ
制作スタッフは実写テレビドラマや映画前作『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』と同じ。
すべてのシーンがヴェネツィアで撮影されており、これは邦画史上初らしい。
ネタバレなし感想
荒木飛呂彦先生の原作もドラマも両方好きなシリーズ。
原作漫画の内容の後日譚となるオリジナル要素がガッツリ入っていて興味深かった。テーマ性も深い。
岸辺露伴は動かないの実写シリーズは評価が高いが、本作も見たいものを見せてくれた印象。
ただ、個人的にちょっとボリューム不足に感じてそこが残念。前作の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ほどの満足感はなかったかな。

実写映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』ネタバレ・ラスト結末解説
田宮の懺悔の続き
娘・マリアが広場で遊んでいる姿を見た男(名前は水尾)は、幸せの絶頂を感じてしまった。その時、ソトバの怨霊がマリアに憑依した。そして田宮を殺そうとする。
男はソトバに「お前はただ逆恨みをしているだけだ」と言った。ソトバは「それならば審判を神に委ねよう。ポップコーンを街灯より高く投げて口でキャッチすることを3回連続で成功させればお前を殺さずに消えてやる」と言う。
男は鳩にポップコーンを食われそうになるなどのトラブルを回避してなんとか2回成功させるが、3回目で失敗。男はソトバから逃げる途中でガラスを運んでいた人物とぶつかり、ガラスで腹が裂けてしまう。ソトバがそばで笑う中、男は死亡した。
露伴は懺悔室にいる男(井浦新)が生きていることに疑問を持ってヘブンズドアーで読んでみる。
男(名前は水尾)はソトバが運んだ幸運に襲われながらも、常に1番ではなく2番目を選択し、幸せの絶頂に到達しないように生きてきた。ある日、田宮という詐欺師を執事にし、多額の金を払って整形で顔を入れ替えた。そして男は執事・田宮のフリをして過ごしてきた。ソトバの怨霊は男と同じ顔になった田宮のほうを殺したのだった。その日から男は、田宮の霊とソトバの霊に呪われることになった。2人の怨霊は「男の娘・マリアが幸せの絶頂の時に男を迎えにくる」と言った。
男はその日から、娘のマリアが幸せにならないように常に2番目のものを与えていた。しかしマリアはロレンツォという男性と出会いあさって結婚することになっている。男は結婚を阻止しようとしていた。
呪われた男の人生を読んだからか、露伴の右手の親指と人差し指が血で染まっていた。露伴は懺悔室の外に、田宮とソトバの怨霊を見た。
ラスト結末
露伴は京香と合流する前に仮面職人のマリアとばったり会い、さらにイベントの責任者がマリアの婚約者・ロレンツォだと知る。偶然という名の幸運に襲われている。
露伴も田宮とソトバの呪いの手先になり、マリアが幸せの絶頂を迎えるための手伝いをさせられているようだった。
露伴は京香とリゴレットの劇を見る。呪われた男・リゴレットが娘を失って絶望する話だ。
京香は露伴の漫画の海外初回販売部数の増刷が決まったと喜んだ。しかし露伴は自分の才能でなく幸運の呪いで漫画が成功しそうなことに屈辱を感じた。
露伴は男(水尾)と会い「呪いを成就させて俺に降りかかる幸運をなくす!」と宣言した。
露伴はマリアやロレンツォと相談して結婚式を1日早め、場所も変更させた。
新郎のロレンツォを殺してでも結婚式を中止させようとしていた男は焦って会場へ行く。
結婚式を挙げるマリアとロレンツォ。指輪交換の目前で、ロレンツォが男の部下に銃で狙われる。ロレンツォをかばってマリアが撃たれてしまった。式場に着いた男は絶望に嘆き悲しむ。その姿を見た田宮とソトバの怨霊は笑った。最大の絶望とは男を殺すことでなく、最愛の娘の命を奪うことだった。
男は絶望しながら「これで助かった」と呟き、教会の外へ出た。
マリアが起き上がる。露伴が怨霊が何を狙っているかを予見して、マリアとロレンツォに芝居をさせていたのだ。露伴は男の部下と事前に会い、ヘブンズドアーで空砲を使えと書き込んでいた。
露伴とマリアの幸運の呪いは解けた。
その後、男は絶望を受け入れ、田宮とソトバに見守られながら生きた。
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』考察:ラストの怖い意味
呪いの本当の意味
実写版の『懺悔室』はテーマは非常に深い作品だった。
呪われてしまった男は、幸運に襲われるようになる。普通なら幸せに身を任せればいいかもしれないが、男は必ず2番を選び、自分が最高に幸せだと感じないようにする。
呪いによって、幸せこそが恐怖!という状態にさらされている。幸せが恐怖ということは、常に不幸を感じ続けなければならないということだ。この点は考えるとゾッとする。荒木飛呂彦先生お得意の終わりの見えない恐怖である(ディアボロが死に続ける的な)。
実写は原作のテーマをさらにわかりやすく表現することに成功していた。
男は娘にも割れた鏡を渡し、アクセサリーは逆さにさせ、常に縁起が悪くさせている。娘に呪いをかけているのは2人の怨霊でなく、この男のほうだろう。
そして、常に幸せに対する恐怖を感じ続けた結果、男は自分が生きることへの執着心を肥大させていく皮肉に陥る。娘の命より、自分の命が長らえることを求めてしまう。
1番に愛した者の価値が揺らぎ、2番目となる。そこに真の恐怖が宿っていると思った。それこそが呪いの本当の怖さだろう。男はそこに気づいていない。懺悔しきれていない愚かさが哀愁となって漂う。
こんなに幸せでいいのか?不幸になってしまうのではないか?そんな不安を抱えたことがある人は多いだろう。人間が持つ根源的な不安が水の街ヴェネツィアを舞台に可視化されていた。
そういう意味で実写版の『懺悔室』は素晴らしかった。
ペストマスクの意味
仮面職人の店にあったペストマスク。これはペスト(黒死病)が流行した時に治療する医者がつけていたもの。口先がクチバシのように長く、そこに薬草を詰めてペストにかからないようにした(しかし、現在の医学的観点からは全く意味のない間違った方法だった)。
この医者のペストマスクは、男(井浦新)が呪いを回避するために幸せを抑制する習慣のメタファーになっている。双方とも間違った方法で呪い(ペスト)に対処しようとしたからだ。
ペストマスクをつけた医者=呪われた男…という意味が込められているのだろう。
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』原作との違い
実写版は原作漫画『岸辺露伴は動かない #16 懺悔室』のストーリーに後日譚を加えたものになっている。
原作は男が教会で懺悔を終え、実は顔を変えて呪いを逃れていたところで2人の怨霊から「今度はお前の娘が幸せの絶頂になった時にやってくる」と言われて終わる。
実写版には娘(マリア)が成長した現在のエピソードを付け加えられた。

劇場版『岸辺露伴は動かない 懺悔室』感想と評価
良い点:岸辺露伴とイタリア旅行!
岸辺露伴と奇妙なイタリア旅行をしている気分になれた。
ドラマと同じように被写体を大胆に斜めに映し、物語の不安定さが強調されている。そして菊地成孔さんによる不協和音ずくしの劇伴がさらに見ている我々の心を不安にさせる。
撮影と音楽が絶妙だからこそ、「岸辺露伴は動かない」シリーズの実写は素晴らしいものになっていると改めて実感した。
高橋一生さんの岸辺露伴はいつも通り完成度が高いし、飯豊まりえさんとのケミストリーもいつも通り素晴らしい。この2人にしか作れない独特の空気感がある。2人が結婚したのも納得。
あとは若い頃の男(役名は水尾)を演じた大東駿介さんによるポップコーンチャレンジの時の表情が素晴らしかった。ジョジョの表情を研究し尽くしているような目がガンギマリの不安な顔。ジョジョのキャラクターがそのまま実写に出てきたようで感動した。
残念な点:物足りない内容
実写版の「懺悔室」は率直に言って物足りなかった。それぞれのカットが素晴らしかったので中弛みはなかったが、ここで終わり?となってしまった。
露伴先生が怨霊を騙してマリアたちに芝居させて終わり?サスペンス映画としては弱いし、正直、ここから最後の対決とか、意外な展開とか行くと思ってたところで終了したので、何度も言うが物足りなかった。
真ん中から赤と白で分かれたマスクは幸福と不幸は見方次第だという暗喩だろう。ただそれが物語と完全に絡み合っていたかは微妙だった。仮面職人の設定がそこまで活きていない気もした。
映画としては前作『ルーヴルへ行く』の方がボリューミーで面白かった印象。
岸辺露伴は動かないシリーズのレビュー↓






映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』キャスト
岸辺露伴|cast 高橋一生
泉京香|cast 飯豊まりえ
謎の男・田宮|cast 井浦新
マリア|cast 玉城ティナ
ソトバ|cast 戸次重幸
水尾|cast 大東駿介
ロレンツォ|cast アンドレア・ベラチッコ(Andrea Bellacicco)
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