白石和彌監督×池上純哉脚本の映画『十一人の賊軍』を鑑賞。『孤狼の血』の時代劇版のようなグロテスクなバイオレンス、そして胸が熱くなる人間ドラマ…想像の数倍面白かった!2024年の秋No.1の出来栄え!
映画『十一人の賊軍』あらすじ
政府軍(官軍)と奥羽越列藩同盟(侍たち)が争う戊辰戦争のさなか。
政(まさ/山田孝之)は妻を手ごめにした(襲った)新発田藩の武士を殺して死刑を宣告される。
溝口内匠(みぞぐち たくみ/阿部サダヲ)は新発田藩を戦から回避するため官軍の側につこうと考えるが、奥羽越列藩同盟に城に乗り込まれてしまう。そこで「同盟のために兵を出す」と嘘をつき、裏では同盟軍が去った後で官軍を迎え入れようと画策していた。
溝口は鷲尾兵士郎(わしお へいしろう/仲野太賀)に「罪人たちを引き連れて砦を官軍から守れ」と命令。官軍と同盟軍を鉢合わせさせないためだった。
騙された11人はその言葉を信じて砦へ向かう。
メンバーは以下↓
- サムライ殺しの政
- 花火師の息子・ノロ
- 詐欺師の赤丹(あかたん/尾上右近)
- 放火魔のなつ(鞘師里保)
- 色狂い坊主の引導(千原せいじ)
- おろしや(岡山天音)
- 三途(松浦祐也)
- 二枚目(一ノ瀬颯)
- 何人も殺した辻斬(つじぎり/小柳亮太)
- 謎の達人・爺っつぁん(本山力)
- 直心影流の使い手・鷲尾兵士郎
11人の賊軍は官軍と激しい戦いを繰り広げた。しかし政や兵士郎たちは次第に溝口の作戦に利用されて使い捨てにされているだけだと気づき激怒する…。果たして賊軍たちは生き残れるのか?
映画『十一人の賊軍』ネタバレ感想:娘への想いが侍を殺すラスト
鷲尾兵士郎の生き様に泣いた。演じた仲野太賀さんは前から好きだったが今作は出色だった。自分の魂をかけて死闘を繰り広げるラストには胸の奥が熱くなった。
黒澤明監督の『七人の侍』のDNAを受け継ぐ(鼻つまみ者たちが決死で挑むコンセプトが似てるよね)ようなエンタメであり、セリフ以外のところにもそれぞれのキャラクターの個性が存分に垣間見えるのが最大の魅力だと感じた。
政の妻でろう者のさだを演じた長井恵里さんは実際にろう者の役者らしく、キャスティングから海外への配給も狙っている印象だ。
知的障害者のノロを演じた佐久本宝さんの演技力にも脱帽。ノロが政をなぜ兄と思ったのか明言されないが、それでいいと納得できる理屈を超えた芝居だった。
ストーリー上のキーポイントはやはり阿部サダヲ演じる溝口内匠だろう。猿芝居を計画した彼が1番守りたかったのは娘の加奈と藩に生きる人たちだ。溝口は家族や藩の人間を内戦の犠牲にしたくなかったから卑怯だと知りながら猿芝居を打った。そして鷲尾と戦うときも最後まで“卑怯”を貫き通した。
溝口は侍社会を滅ぼした近代化そのものだ。忠義や武士道よりも誰かを守りたい気持ちが優先されたときに侍は滅んだのだとしみじみ感じた。娘への想いが侍たちを殺したのだ。対して決死隊の兵士郎や政は死を選ぶ。溝口を悪と断罪することはできないし、兵士郎の生き方を否定することもできない。そんな葛藤の渦に投げ込まれ心を揺さぶられた。
次のページでは、なぜ政たちは逃げなかったのか?存在意義を賭けた戦いについて徹底考察していく↓↓
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