マーベルMCU映画『サンダーボルツ*』(Thunderbolts*)を鑑賞。
再びMCU作品を追いかけてもいいかな…と思えるくらいの革新的な作品だった。『エンドゲーム』以降のNo. 1。
賛否あるかもしれないが、これまでのマーベル作品とは一線を画す内省的なつくりに感服した。
- あらすじ・キャスト
- ネタバレラスト結末
- 虚無感のメタファーの多重構造
- エンドロールの意味
- 忖度なしの感想・良い点悪い点評価
これらの情報をまとめました。
『サンダーボルツ*』あらすじ
『サンダーボルツ*』あらすじ:エレーナ(フローレンス・ピュー)はOXEのCEOヴァレンティーナから命じられる証拠の隠滅ミッションに大きな虚無感を抱いていた。
エレーナは父・アレクセイ(デヴィッド・ハーバー)と会い、姉(ブラック・ウィドウ)のように「今後はもっと社会と繋がりたい」と話す。
ヴァレンティーナは違法な人体実験をした容疑で弾劾訴追裁判にかけられていた。
ヴァレンティーナはエレーナに最後の任務として「砂漠の山に掘られた巨大な保管庫から証拠を盗もうとする人物がいるから、その人物を待ち伏せして何が狙いか聞き出し、始末しろ」と命じられる。
エレーナが保管庫の地下に入ると、ジョン・ウォーカー(ワイアット・ラッセル)、ゴースト(ハナ・ジョン=カーメン)、タスクマスター(オルガ・キュリレンコ)と鉢合わせする。4人は殺し合いを始めるが、なぜこんな状況なのか違和感を覚える。
実験用BOXから何かの被験者だったらしい男性ボブ・レイノルズ(ルイス・プルマン)が目覚めた。エレーナたちはボブの登場に呆気にとられる。
エレーナたちは保管庫に閉じ込められた。ヴァレンティーナは証拠隠滅のためにこれまでの作戦に関わったエレーナたち全員を焼却処分するつもりだったのだ。
エレーナたちはなんとか逃げ出そうとするが。。。
『サンダーボルツ*』登場人物・キャスト
エレーナ・ベロワ|cast フローレンス・ピュー(『ミッドサマー』『ホークアイ』『ドント・ウォーリー・ダーリン』『デューン 砂の惑星 PART2』)
バッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー|cast セバスチャン・スタン(『ウィンターソルジャー』)
ジョン・ウォーカー/USエージェント|cast ワイアット・ラッセル
エイヴァ・スター/ゴースト|cast ハナ・ジョン=カーメン
アレクセイ・ショスタコフ/レッド・ガーディアン|cast デヴィッド・ハーバー
ボブ・レイノルズ/セントリー/ヴォイド|cast ルイス・プルマン(『トップガン マーヴェリック』)
アントニア・ドレイコフ/タスクマスター|cast オルガ・キュリレンコ
映画『サンダーボルツ*』ネタバレ・ラスト結末の解説
サンダーボルツ結成
ゴーストがタスクマスターを射殺した。
保管庫内の温度が上昇していく。エレーナ、ゴースト、ジョンは協力してなんとかボブを連れ出して保管庫から脱出。
ボブは躁鬱病を患っているようだった。エレーナは自分を励ますように彼を励ます。
保管庫から脱出しようとすると、ヴァレンティーナの命令で建物は傭兵・ホルトの部隊に包囲されている。エレーナたちは兵士たちを倒しどうにか脱出。
ボブが勝手に囮(おとり)になり、兵士たちに撃たれてしまう。次の瞬間・ボブは覚醒して空高く舞い上がり、気を失って墜落した。ボブはセントリー実験の生き残りで、スパーパワーを得ていたのだ。墜落して気を失ったボブはヴァレンティーナの部下に保護される。
エレーナたちは保管庫から逃げる。アレクセイがリムジンで迎えにきた。ホルトの部隊に追われるが、そこに現れて助けてくれたのがバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャー(セバスチャン・スタン)だった。
バッキーはホルトの部下を倒したあとでエレーナたちを捕らえる。
議員のバッキーはヴァレンティーナの訴追裁判の証拠に、彼女に雇われていたエレーナたちに証言をさせたかったのだ。
エレーナたちは「ボブがやばい!」と口を揃える。
ヴァレンティーナの秘書・メルからもボブのことを聞いていたバッキーは4人を解放した。
連携プレーを経て、5人はサンダーボルツを名乗ることに決めた(エレーナが幼少期に入っていたサッカーチームの名前)。
ラスト結末
エレーナたちはヴァレンティーナのビルへ。そこで待っていたのはスーパーパワーをコントロールしたボブだった。ヴァレンティーナの案でセントリーと名乗っている。
4人は仕方なくボブと戦う。しかしボブは超能力を持っており全く歯が立たない。5人は退散した。
精神が不安定なボブが暴走し始め、ヴァレンティーナはキルスイッチを構える。メルがボタンを押し、ボブは死亡した。
死んだかに見えたボブは生きており、漆黒のヴィラン・ヴォイドに変貌してニューヨークの街を破壊し始める。エレーナたちは人々をヴォイドから守った。ヴォイドは人々を漆黒に変えて虚無世界へと送り込む。
エレーナは自らヴォイドの虚無世界の中に入った。虚無世界ではかつてエレーナが犯した罪(レッドルームの試験で友達のアーニャを殺した)などの記憶が繰り返し投影される。
ゴーストやアレクセイたちも虚無世界へやってきた。エレーナたちは弱々しいボブを見つけた。
ボブはもう1人の自分・ヴォイドと戦いつつも、漆黒に取り込まれそうになる。エレーナ、アレクセイ、ゴースト、ジョン、バッキーがみんなでボブを抱きしめて引っ張り出した。
その瞬間、全員が虚無世界から抜け出すことに成功する。
エレーナたちはヴァレンティーナを捕まえようとするが、ヴァレンティーナはメディアを呼んでおり、サンダーボルツのメンバーを「ニューアベンジャーズ」として紹介する。
エンドクレジット
14カ月後。エレーナたちはアベンジャーズと政府に認可されるが、キャプテン・アメリカ(ファルコン)はそれを許していないようだった。
エレーナたちは余剰次元からやってきた宇宙船(ファンタスティック4)を見る。
「ニューアベンジャーズとボブは帰ってくる」の文字が映されて終幕
『サンダーボルツ*』考察まとめ
巨大な保管室は虚無感のメタファー
本作のキーワードはVoid(ヴォイド/虚無感)やVault(ヴォルト/保管庫,金庫)だった。
序盤の巨大な保管室に閉じ込めれらるくだりも、終盤のボブの精神世界に閉じ込められるくだりも、本作の舞台全体が虚無感による鬱状態のメタファーになっている。
自分という牢獄から抜け出せなくなった心の状態がうまくヴィジュアライズ(可視化)されていた。
ヒーロー映画ながらエレーナ、ボブはじめみんな鬱っぽさや虚無感を抱えており、体が超頑丈なヒーローでも過去のトラウマで鬱になること=ヒーローの心の弱さをリアルに描いていた点が興味深い。
アレクセイの話で、エレーナがレッドルームの訓練を受ける前は明るい子で、みんなのミスを庇うためにゴールキーパーに志願したというエピソードも印象的だった。
エレーナはその話を聞いて、本来の自分の美しい性質を取り戻したようだった。
『サンダーボルツ』は心の金庫(Vault)=自分の過去を開けてみたら、思いの他強い自分や優しい自分に出会えたという映画だと感じた。
in the vaultにはスラングで「秘密だから誰にも言わないで」という意味がある。
『サンダーボルツ』には「秘密」や「自分の弱さ」をさらけ出すテーマがあり、内面の吐露が保管庫(vault)や精神世界からの脱出シーンとシンクロしていた。そこに大きな感動があったのだと思う。
ちなみにThunderboltsの「bolts」と金庫や保管庫を指す「Vault」が音的にかかっているのかなとも思った。
ボブ=MCUファン
これを言ったら怒られるかもしれないけど、虚無感の塊で闇堕ちしたボブ自体が最近のMCU作品に満足いっていないファンのメタファーになっているようにみえた。
保管庫という人間の虚無感のメタファーがあり、その外側に虚無感からファンを救い出すテーマがある多重構造。
商業路線やポ○コレにより過ぎた新作の数々に虚無感を漂わせたMCUファンは少なくないだろう。
そのMCUファン(ボブ)をサンダーボルツが救ってくれた。そんなメタ的な解釈が楽しめた。
ちなみにボブの精神世界にエレーナたちが入り込む展開は、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』のオマージュに見えた。
エンドクレジットの宇宙船の意味は?
ラストの宇宙船はファンタスティック4のものだよね。他の次元で宇宙船が事故に遭ってサンダーボルツの世界線に到達したということだろう。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が2025年7月25日に日米同時公開される。『サンダーボルツ*(ニューアベンジャーズ)』との合流がありそうだ。
『サンダーボルツ*』感想と評価:内省的なニューアベンジャーズ爆誕
ヴィランがヴィランを救う、負け犬たちの物語
MCUの熱烈なファンではない私が、再びMCU作品を見始めてもいいかなと思える良作だった。アクションも最高だし、編集も完璧でテンポが良い。そして心のそこから湧き上がる感動もある。
正直、マーベルは今作『サンダーボルツ*』がコケたら終わりとまでは行かなくても、かなりの苦境に立たされるであろうことは間違いなかった。そんな不安を払拭してくれる出来栄えで大満足。
エレーナとアレクセイが出るから『ブラック・ウィドウ』みたいなクオリティだったらどうしようと内心ビクビクしていたが、心配無用だった。
なぜ最近のマーベル作品に飽き飽きしていたかというと、人生や人間について学べるような作品ではなくなっていたから。『アイアンマン』の頃とはベクトルが大きく変わり、MCUの世界観ありきの連続ドラマみたいな感じになって1つ1つの作品から深い学びが得られないような感じだった。
ファンを喜ばせるためだけの映画を作って映画本来の意味を見失っていたような印象(MCU作品としては良いかもしれないけど1本の映画としてそれで良いの?みたいな)。
その点、サンダーボルツは誰しもが感じる虚無感や孤独感からどう立ち直るかや、仲間と一緒にいることの重要性を可視化してくれて生きる勇気をもらえた。1本の映画として満足できた。
ヴィランがヴィランを助ける物語というのもすごく斬新だったと思う。
エレーナもヴィランだからこそボブが闇堕ちした気持ちに寄り添える納得感があった。優等生のヒーローが「お前はまだやり直せる!」と言うのと説得力が違う。人生奈落の底同士のコミュニケーションなのだ。
世界を救うためにはまず自分を救わなくてはならない。そしてラスボスを倒す前にまず目の前で助けを求める誰かを救わなくてはならない。そんな根本的なことが力強く描かれていた。
みんながみんなヒーローになれるわけではない。私たちの心の中にも負け犬のヴィランがいる。エレーナやアレクセイ、ジョンやバッキー、そしてボブがいるのだ。負け犬たちも手を取り合えば前に進める。そんな普遍的なメッセージがあった。
監督のジェイク・シュライアーは高い評価を受けたNetflixドラマ『Beef』(2023)の演出を担当。
『Beef』はブラックコメディを交えつつの非常に丁寧な心理描写が魅力だったが、それが『サンダーボルツ』でも存分に発揮されていた。負け犬同士の遠吠えと友情を描かせたらすごいなこの人。
ジェイク・シュライアーは制作陣としてMCUの救世主になりそう。
ヒーロー映画の新フェーズは非常にアメリカ的
『サンダーボルツ』には、アイアンマンやキャプテン・アメリカのような模範的・リーダー的なタイプのヒーローは登場しない。根底にアンチヒーローがある新しいタイプの映画だ。
一方で、どんな過ちがあってもやり直せる!というテーマは非常に古き良きアメリカ的だと感じた。
キリスト教の影響もあってか、罪を犯してもやり直せる!というテーマは無数のハリウッド作品で散見される。多くの映画やドラマで主人公が過去の罪やトラウマを抱えていてセラピーに通っているのがデフォだったりする。
『サンダーボルツ』もそんな普遍的なテーマを踏襲したものだった。
心の弱さに焦点を当て、さらに心の状態を可視化することはヒーロー映画としては斬新だが、他方でアメリカが古くからもつ一般的な価値観が投影されている面もあると感じた。
温故知新な作品がゆえに幅広い支持を集めることだろう。
ヒーロー映画というより人間ドラマ
ヒーロー映画としてのカタルシス、最後に強大な敵を倒してヨッシャアア!!みたいな感情はなかったのでそこが少し拍子抜けだったし賛否あると思う。
しかしサンダーボルツはヒーロー映画というより内省的なヒューマンドラマといった方が近いので、今回の結末でも全然納得できる。
そもそも外へ!宇宙へ!と向かっていくヒーロー映画ではなく、自分の心の内へ内へと向かっていくセラピー映画なのだ。
外どころか別の世界線へ繋がるマルチバース(パラレルワールド)と真逆の、心の内側を探るコンセプトに感服した。
残念だった点:タスクマスターの扱いが酷すぎる
2時間があっという間というほど楽しめたので残念だったところはほぼない。
強いて言えば。。。タスクマスターの扱いが酷すぎた。保管庫でゴーストに撃たれてあっさり死亡。なんか可哀想。俳優のオルガ・キュリレンコも元ボンドガールで割と有名なのに。まあでもタスクマスターはサンダーボルツチームにはいらない気もするし、仕方ないのか?。
序盤で保管庫から脱出したボブがホルトの軍に撃たれるのも謎だった。ボスのヴァレンティーナが「撃つな!生捕にしろ!」って散々言っているのに誰も命令聞いてないじゃん。
まあ細かい点を除けば、『サンダーボルツ』は『エンドゲーム』以後のMCU作品で個人的に1番大好きな作品になった。『サンダーボルツ』のような作品が増えるなら、またマーベルを追いかけてもいいかなと思えた。(ディズニープラスで関連ドラマ連発はちょいキツいけど)。
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