映画『陪審員2番』ネタバレ考察,ラスト結末あらすじ,心が揺さぶられる傑作を解説レビュー

映画『陪審員2番』

クリント・イーストウッド監督の最新作『陪審員2番』(英題:Juror #2)をU-NEXTで鑑賞。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でウォーボーイズのニュークスを演じたニコラス・ホルトが最悪の秘密を抱える陪審員に扮する!

あらすじ、ネタバレなしの感想、事件の内容とラスト結末解説(ネタバレ)、物語の考察と忖度なしの感想をまとめました。

映画『陪審員2番』あらすじ

アメリカ公開:2024年11月1日
日本公開日:2024年12月20日(U-NEXT独占配信)
長さ:114分
監督|クリント・イーストウッド
脚本|ジョナサン・エイブラムズ

映画『陪審員2番』裁判のシーン

あらすじ:ジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は出産間近の妻・アリソンと暮らしている。ジャスティンはある事件の陪審員に選ばれ、裁判所へ向かった。

若い女性・ケンドル(フランチェスカ・イーストウッド)が道路沿いの川で死亡していた事件で、立件の概要は、ボーイフレンドのサイス(ガブリエル・バッソ)が口論のすえにケンドルを撲殺したというものだった。

フェイス・キルブルー検事(トニ・コレット)が被告人・サイスが犯人で間違いないと現場の状況を説明する。

ジャスティンは事件の日付や内容を聞いて自分との符号点を見つけ、愕然とした…。

キャスト
ジャスティン・ケンプ|cast ニコラス・ホルト(『ザ・メニュー』)
フェイス・キルブルー検事|cast トニ・コレット(『へレディタリー/継承』『ナイトメア・アリー』)
エリック・レズニック弁護士|cast クリス・メッシーナ
ジェームズ・マイケル・サイス被告人|cast ガブリエル・バッソ(『ナイト・エージェント』)
ケンドル・カーター被害者|cast フランチェスカ・イーストウッド
ハロルド・チコウスキー|cast J・K・シモンズ(『レッド・ワン』)
アリソン・クルーソン|cast ゾーイ・ドゥイッチ
ラリー・ラスカー|cast キーファー・サザーランド
ケイコ|cast 福山智可子
テルマ・ホルブ判事|cast エイミー・アキノ
マーカス・キング|cast セドリック・ヤーブロー
デニス・アルドワース|cast レスリー・ビブ

ちょこっと感想

主人公が〇〇でした…という設定が非常にキャッチーで引き込まれる。

裁判や陪審員同士の話し合いはむつかしくはないが、論理的かつ知的で面白い。

それだけでなく、正義とは何か?までしっかり問いかけられる。観客に真摯に問いかけるクリント・イーストウッドの手腕が光っていた。もう94歳、信じられない。

映画好きなら見るべきエンタメ性の高いリーガルサスペンス。

ちなみに被害者女性ケンドルを演じたフランチェスカ・イーストウッドはクリント・イーストウッド監督の娘。

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映画『陪審員2番』ネタバレ・ラスト結末の解説

事件の概要:1年前の10月25日、死亡したケンドルは被告人のサイスとバー・ハイダウェイで酒を飲んでいたが口論になり、雨の中店から出た。店の外でも口論があったことを他の客が確認している。その後ケンドルは森沿いのコーリー旧道を1人で歩いた。翌朝、男性が道横の川で頭が割れて死亡しているケンドルを発見。
検察側の主張:被告人サイスは、ケンカのあとで車でケンドルを追いかけ、大きな石か何かでケンドルの頭を殴り、川に放置して殺害した。
弁護側と被告人の主張:サイスはケンドルとケンカはしたが、車で彼女を追わずに引き返して家に帰った。サイスは無罪だ。

ジャスティンは事件の当日のことを思い出した。その日、妻のアリソンが双子を流産し、耐えられずにバー・ハイダウェイに行った。そのあとでコーリー旧道を車で通った。大雨で視界が悪く、何かにぶつかった。鹿注意の看板があったために鹿を撥ねたと思い、そのまま走り去った…。

ジャスティンはあの時に車で撥ねたのが鹿でなくケンドルだと確信して絶望…トイレで嘔吐する。犯人は自分だったのだ

裁判では、コーリー旧道の遺体発見現場ちかくに住む年配の男性が、事件当日に車から降りる被告人・サイスを見たと証言する。

陪審員の話し合いが始まる。目撃者の証言が決め手になり、またサイスが以前は麻薬組織に属していたこともあって「有罪だ」という声がほとんどだった。

しかしジャスティンは、自分のせいで無実のサイスが無期懲役になってしまうことに耐えられず、「彼は無実かもしれない。殺した確証はないから議論しよう」と呼びかける。

ジャスティンは断酒会を行っている弁護士で友人のラリー・ラスカー(キーファー・サザーランド)に、自分が陪審員を担当している事件の犯人が自分であると告白。

事件直前にバーには行ったが酒は一滴も飲んでいないと話す。

ラリーは、ジャスティンが4年前に飲酒運転で交通事故を起こした過去にふれ、ケンドルを轢くまえにバーに行ったから、裁判では飲酒運転での過失致死とみなされ最悪で終身刑になる可能性があると言った。

ラリーは絶望した。名乗り出たら自分と妻と子供の人生がめちゃくちゃになる

陪審員に選ばれた元刑事のハロルド・チコウスキー(J・K・シモンズ)は、事件直後に修理に出された履歴を調べ、緑のSUVが犯人の車だと考える。

ハロルドから協力してくれと言われたジャスティンは、車の修理歴の資料をわざと落として関係者の目につくようにした。陪審員は独自に事件調査をしてはいけないため、ハロルドは陪審員をクビになった。

陪審員で医学生のケイコ(福山智可子)は死亡したケンドルの左右の鎖骨がきれいに折れていることから、背中に強い衝撃が加わったと考える。陪審員のメンバーはケンドルが殺されたのでなく車に跳ねられた可能性を考えた。

フェイス検事(トニ・コレット)はハロルドが提出した緑のSUVの修理歴が気になり、該当する人物に事情を聞いて回った。アリソン(ジャスティンの妻)の自宅にも行き話を聞く。アリソンは夫が事件当日ブリムストーンパスで鹿を轢いたのが事故の原因だと話した(フェイスはアリソンの夫がジャスティンだと知らない)。

フェイス検事はエリック弁護士(クリス・メッシーナ)に相談し、被告人のサイスにも面会する。サイスが犯人だとは思えないような気もした。

アリソンからフェイス検事の訪問を聞かされたジャスティンは、ケンドルを轢いた犯人が自分であることを告白。アリソンは涙を流す。ジャスティンは「自分が家族を守る」と誓った

その後、陪審員たちは現場見学などを経て評決を下した。有罪だった。ジャスティンは自分と家族を守るために意見を有罪に切り替えたのだった

その後、フェイスはアリソンの夫が陪審員のジャスティンであると気づき、彼を見つけて話しかける。

映画『陪審員2番』終盤のシーン トニ・コレットとニコラス・ホルト

ジャスティンはフェイスに「事故だった。あなたが事件を蒸し返せば善良な私の家族が犠牲になり、元々悪党のサイスが世に放たれる。真実が正義とは限らない」と開き直った。
くわえて、ケンドル事件での勝訴の影響で検事長に出世したフェイスが事件を振り出しに戻せば、大バッシングを受け今の地位を失うことは避けられない。

朝、ジャスティンは生まれたばかりの娘と妻と幸せに過ごしていた。インターホンが鳴る。フェイスが立っていた

映画『陪審員2番』終わり

映画『陪審員2番』考察:倫理的な揺さぶり

その後はどうなる?

フェイス検事が再審を請求し、その結果、ジャスティンは有罪になって家庭が崩壊するのだろう。

フェイスは正義をとった。いっぽうでジャスティンの人生は破滅する。

もしくは、フェイス検事とジャスティンが密約を結ぶ可能性もある。大まかにはこの2パターンの解釈が考えられる。

真実が正義とは限らない!?

鑑賞者に倫理的な揺さぶりをかけてくる構図がものすごく巧い。

自分の失墜を恐れずに再審を請求するつもりであろうフェイスの正義感がキラリと光る最後。

彼女は決して間違っていない。ただ考えなければならないのは、ジャスティンには相応の罪が与えられるのではなく、飲酒運転が加味されることで、実際よりも刑期が相当に重くなってしまう可能性が高いということ。

ジャスティンは回想により事件直前には酒を飲んでいないことがわかっている。しかしラリー(キーファー・サザーランド)は「陪審員はバーに行ったお前が酒を飲んでいないとは思わない…」と答えている。

陪審員制度の難しい部分が浮き彫りになっている。バーに行って酒を飲まないケースもあるだろうが、社会の常識的に“飲んだ”とみなされてしまう。

自分の罪を隠蔽してサイスを有罪にしたジャスティンは悪い。しかしジャスティンも可哀想である。

自分の人生だけでなくジャスティンが仮に無期懲役を宣告されれば、妻のアリソンと生まれたばかりの娘の人生も崩壊する。

トロッコ問題の問いの立て方が絶妙だったことが本作の評価が高い大きな理由だと感じた。

映画『陪審員2番』感想:クリント・イーストウッド節が光る

めちゃくちゃ面白かった。法廷劇って途中は固い雰囲気になって退屈なこともあるけど、本作は究極の二択の問いかけが常にありつつ、裁判の行方や主人公・ジャスティンの選択が最後にどう動くかわからなかったので緊張感を保ったまま見続けられた。

脚本のジョナサン・エイブラムズはスタローン主演の『大脱出』(Escape Plan)のプロデューサーを務めた人物らしい。手がけた作品はあまり多くないようだが『陪審員2番』のストーリー設定を思いつく時点で素晴らしい才能なので、どんどん活躍してほしいと思った。

全体的なテイストは一貫してクリント・イーストウッド節だと思った。具体的には『パーフェクト・ワールド』(1993)や『アメリカン・スナイパー』(2014年)などいくつもの作品で描いている、1人の人間の心理的な多面性を渋い視点で切り取る手法が本作でも生きていたと思う。

良い面、悪い面…模範的な部分、モラルが崩壊していく過程、1人の人間はいくつもの側面を抱えている。ときには善悪で答えを出すことはできないが、徹底的に見つめることが大切なのではないか。クリント・イーストウッド監督はそんな視点を持っている気がする(天才の考えていることなんか推し量れないけど)。

監督兼出演をした前作『クライ・マッチョ』(Cry Macho)がそこそこの出来だったので心配していたが、100歳まで映画を撮って欲しいと思った。

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補足になるが、エンタメ性も高かったのが本作の良さでもあった。フェイス検事(トニ・コレット)とエリック弁護士(クリス・メッシーナ)が法学部の同期で、裁判のあとで2人で酒を飲む関係性なのもエンタメ性を後押ししていた。検事と弁護士が腐れ縁なのは司法モノあるある。

主人公・ジャスティンと陪審員を中心に、ジャスティンと妻の関係(流産の悲しい過去)、フェイスとエリックの関係などが絡み合い、物語をより多面的にしていたと思う。

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