『人間標本』考察ネタバレ/最悪ラストの意味,4原色の構図,至の動機,本物のオオベニモンアゲハは誰?

ドラマ『人間標本』(Human Specimens)

Amazon Prime Videoでドラマ『人間標本』(Human Specimens)を一気見!

湊かなえさん小説の実写化の中で1番好きだった(『告白』や『母性』と比べても)。

人間を標本にした美しいアートと狂気に苛まれる、激ヤバかつ意味不明かつ極上のストーリー!

  • 至の動機
  • ラストの最悪な意味
  • 本物のオオベニモンアゲハ(毒持ち)は誰?
  • 至が杏奈に協力した本当の理由

これらのストーリーの疑問点と考察にプラスして、物語の構造やテーマの解説をまとめました!

『人間標本』ストーリー考察まとめ(ネタバレ)

本物のオオベニモンアゲハ(毒持ち)は誰か?

面会に来た杏奈のセリフにより、史朗は至のために、至は杏奈のために、杏奈は留美のためにそれぞれ擬態して毒を持っているように振る舞い、罪を犯したとわかる。

よって、毒を持つ本物のオオベニモンアゲハ=留美となる。

いっぽうで、留美は6歳のときに史朗が作った標本絵画「蝶の王国」を見てから芸術家の道を志した経緯がある。

毒を最初に持っていたのは史朗なのかもしれない。

さらに、幼少期の史朗が画家だった父・一朗の「次の作品は人間標本」というスピーチに大きな影響を受けたと考えると、一朗から毒を受け継いだとも考えられる。

誰が毒を持っていたのか?という以上に、蝶の美しさや芸術という名の毒がループしていることが物語の核心なのだと考える。

毒=親が子を承認するシステム

毒は芸術そのものであると同時に、親が子を承認するシステムでもあった。

毒親の留美(宮沢りえ)はわかりやすい。彼女は承認と引き換えに娘の杏奈に殺人を犯せと命じた。そして杏奈の心を壊した。

芸術家の一朗は、息子・史朗を蝶の標本の美しさに触れさせた。そこから全ての不幸が始まった。

史朗は至を無条件に愛し、承認していた。愛が深すぎるゆえに、至は純粋すぎる心に成長し、杏奈の人間標本制作に手を貸すことになってしまったようにも見える。

子供は親の承認を得るために親の毒を飲んでしまうのでは?そんなふうに考えさせられた。

至(イタル)が杏奈に協力した理由

至が杏奈を手伝った動機を考えると、結末に一筋の光も見えてくる。

至が杏奈に手を貸した理由は、画家として特筆すべき才能や表現したいものがないため、留美に認められたかったから。杏奈がすでに5人を殺して解体作業をしているのを見て、芸術家として彼らの肉体を作品に仕上げる義務感を感じたから、などと推察できる。これらの理由もあるだろう。

しかしそれだけでは杏奈を庇って自分が人間標本を計画したと偽った理由は不明だ。
もっと他に大事な動機があると思った。

至は父・史朗に愛されている。理想の親子関係と言ってよい。そんな至は遺体を切断しながら「私が母に認めてもらう!」と叫んだ杏奈を見て自分たちとは真逆の親子関係に気づき、不憫に感じたことは想像に難しくない。

至は父から無償の愛をいっぱいに受けているからこそ、杏奈の絶望の深さ(母から芸術家として認めてもらえず、さらに殺人を命じられる)に気づき、彼女を救済しなくてはならないと思ったのではないだろうか。

さらに、至は留美が毒を持っていることを見抜いていた(面会での史朗と杏奈の会話から)。

至のギフトは見たものをそのまま描ける能力。それは言い換えれば、留美が毒を持つオオベニモンアゲハだと見抜いたその洞察力といえるのかもしれない。

至は父・史朗と留美の特別な信頼関係を知っていたので、父が留美の人間標本計画を知って悲しむことがないように…と考えた可能性もある。
父が留美の本性に気づいて欲しくなかったのかもしれない。

至から「僕も毒を持っている」と聞いた史朗が安心する自宅でのシーンがあったが、実際には至は人間として純粋すぎたように見えた。

ラストの意味:史上最悪級?

ラストでは史朗(西島秀俊)が杏奈(留美の娘/伊東蒼)との面会を終え、5人の人間標本を計画していたのが留美で、それを杏奈が実行し、至(イタル/史朗の息子/市川染五郎)が手伝ったと判明。

史朗は息子の至が単独で人間標本を作ったと勘違いし、“父の使命”として至を殺してしまった。そして全てを自分の芸術作品に見せかける。

さらに史朗は、至が最後に自分に殺されることを知っていたと悟り、絶叫する。イヤミスを超えた最悪の自我崩壊ラストだ(映画『ミスト』級)。

先ほどは至が父・史朗を留美の毒に触れさせないようにすべて自分の犯行と見せかけて殺される道を選んだと書いたが、別の考察もできる。

至が「この毒の系譜を自分で終わらせようとした」可能性だ

自分が計画者だと嘘をついて杏奈を庇い、父に殺される結末を引き受ける。

これは救済ではなく“全部を自分一人で抱えて終わらせる”選択にも見える。

至は、一郎から史朗へ、史朗から留美へと増幅していった毒を断つために自らの命を犠牲にしたのかもしれない

ただ、至は「蝶の王国」の絵を描き、アゲハ蝶(父)にまた会えるかな?的なことを言っていたので、一縷の希望は残されている。絶望だけの犠牲ではなかったのかもしれない。

『人間標本』テーマの考察まとめ(ネタバレ)!

『人間標本』はいくつものテーマが折り重なっていた。

私が特に感銘を受けた(読み取った)のは、人間は愛する者のために擬態するというテーマ。これが人間と蝶の違いなのだろう。

史朗は杏奈に「人間に戻れ」と言ったのは、母のために擬態した彼女は蝶でなく人間に戻る資格があると考えたからだと思う(杏奈は5人殺しているので倫理観ガン無視のメッセージではあるが)。

また序盤から中盤にかけての父と子供の視点でストーリーが語られる構図はまさに蝶の羽の表裏をあらわしており、それが終盤には史朗、至、杏奈、留美の4原色の物語に変化する

4つの色(4人)があれば、ストーリーの見え方は1億通りか…コンセプトとしても一級品の美しさを放っている。

『人間標本』が描いた最も恐ろしい毒は、猟奇殺人ではなく、「あなたは特別だ」と囁く愛だったのかもしれない。

『母性』から複数の登場人物による視点を継承しつつ、綺麗にまとまった愛と憎しみの物語に昇華されている。凄すぎる。

また『人間標本』は『母性』の母と娘の敵対関係・葛藤を継承していたいっぽうで、父子は深い絆・信頼で結ばれている。

母・留美は娘・杏奈に猟奇殺人を実行させたが、父・史朗は息子を“猟奇殺人犯ではなく人間のまま”にするため標本にした。

母娘・父子の関係が反転していて興味深い。これも蝶の羽の両面なのだろうか。

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この記事を書いた人

映画やドラマの考察歴5年。映画好き歴20年。映画鑑賞累計2000本前後。ドラマは数百本。Webライター歴8年。いくつかのメディアでの執筆歴あり。映画やドラマの本質を追求するような解説や考察が書けるように日々精進しています。パーソナルな感想に普遍的な何かが少しでも宿っていれば幸いです。

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